9月21日、Dataconomyが「Alibaba releases open-source AI for abdominal CT diagnosis」と題した記事を公開した。Alibaba傘下の研究機関Damo Academyが腹部CT診断AIモデル「Damo Radar」をオープンソースで公開し、その性能が権威ある学術誌「Science」に掲載された論文で実証された。放射線科医26人中23人を上回る診断精度を示す一方、AIが医師を「代替」するものではなく、医師の補助ツールとして使った場合に見落としが10%減・診断時間が30%超短縮されるという実用的な価値が確認された点が注目される。
150近い腹部疾患をCTから検出
Damo Radarは、造影CT(静脈内に造影剤を投与してコントラストを高めたCTスキャン。腫瘍や血管病変の検出精度が通常CTより高い)を解析対象とし、腹部18臓器にわたる約150種類の疾患(がんを含む)を識別できるAIモデルだ。コードとモデルウェイトが公開されており、病院・研究者・開発者が独自に検査・改良できる。
精度面では、約4万件の実臨床検査データを用いたテストで146の臨床所見にわたる平均AUCスコアが0.913を記録した。AUC(Area Under the Curve)とは診断モデルの識別性能を0〜1で表す指標で、0.5がランダム判定、1.0が完全な診断精度に相当する。0.913は実臨床応用において高水準とみなされる値だ。
この結果は学術誌「Science」に掲載された論文で報告されている。Scienceは世界最高峰の査読付き学術誌のひとつであり、掲載されること自体が研究の信頼性・再現性について厳格な審査をクリアしたことを意味する。医療AIの論文がScienceに掲載されるケースはまだ少なく、今回の公開はその点でも注目度が高い。
放射線科医26人との比較試験
精度を数字で示すだけでなく、実臨床での比較試験も実施されている。複数病院の放射線科医26人を対象とした検証で、Damo Radarはそのうち23人を上回る診断精度を示した。
ただし、この結果は「AIが医師より優秀」という単純な解釈につながりやすい点に注意が必要だ。比較試験の条件(使用症例の難易度・読影環境・時間制限の有無など)によって結果は大きく変わりうる。開発チーム自身も、Damo Radarをあくまで放射線科医の補助ツール(アシスタント)として位置づけており、医師がDamo Radarを活用した場合の効果を以下のように報告している:
- 見落とし診断が10%減少
- 診断にかかる時間が30%超短縮
AIを単独で使うのではなく、医師の判断を支援する形で組み合わせることで、実臨床での有用性が最大化されるという設計思想が明確だ。
学習手法と拡張可能性
Damo Radarは、CTスキャン画像と臨床レポートをペアにした学習データを用い、**ビジョン-言語学習(vision-language learning)**——医療画像とテキスト記述を対応付けることで、画像の意味的な理解を深める手法——で訓練されている。開発チームはこのモデルを「世界初のエキスパートレベルの汎用医療画像モデル」と位置づけている。
また、開発チームは今回の学習手法が腹部CTに限らず、MRIや内視鏡画像など他のモダリティ(撮影・取得方式)にも応用できると述べており、将来的な展開への含みを持たせている。
オープンソース公開の意義と留意点
今回のオープンソース公開は、研究コミュニティにとって大きな意味を持つ。通常、大手企業の医療AIモデルはクローズドなAPIや製品として提供されることが多く、内部ロジックの検証が困難だ。コードと重みが公開されることで、第三者機関が独自にバイアス検証・再現実験を行える環境が整う。
一方で、留意すべき点もある。医療AIの実臨床導入には規制上のハードルが存在する。米国ではFDAの承認、日本では薬機法に基づくPMDA審査が必要であり、オープンソースで公開されているからといって、そのまま診断目的で使用できるわけではない。また、モデルの過信や、学習データに含まれる集団的偏り(特定人種・年齢層への性能差など)についても、臨床導入前に慎重な検証が求められる。
※編集部の考察:オープンソース公開は「誰でも使える」という印象を与えやすいが、医療AIの場合は「誰でも研究・検証できる」という段階が先であり、実臨床利用までには規制審査・臨床試験という別のプロセスが必要な点を読者は意識しておくとよいだろう。
Damo Academyの医療AI実績
Damo Academyはこれ以外にも医療AI開発を継続的に進めている。肝臓がん診断モデル「Damo LiON」は、前向き臨床試験において医師が見落とした悪性腫瘍15件を検出した実績を持つ。今回のDamo Radarはその延長線上にある成果であり、対象臓器・疾患の範囲を大幅に拡大したものと位置づけられる。
医療AIの分野では、大規模基盤モデルを特定臓器や疾患に適用する研究が世界的に活発化しており、GoogleのMed-PaLMやMicrosoftのBioGPTなど主要テック企業が参入している。今回のオープンソース公開は、他の研究機関や医療機関が独自に検証・応用する上での共通基盤になりうるという点で、業界全体への波及効果が期待される。
詳細はAlibaba releases open-source AI for abdominal CT diagnosisを参照していただきたい。