9月22日、PYMNTSが「DoorDash Gives 10,000 Employees an AI Data Analyst」と題した記事を公開した。DoorDashが社内向けに開発したAIデータエージェント「Vera」を1万人以上の従業員に展開した取り組みを詳報している。プロジェクト開始時に**43%だった正答率が90%**まで到達するまでの改善プロセスと、350ペタバイト規模のデータ基盤を自然言語で扱えるようにした設計の実態は、エンタープライズAI導入の具体例として注目に値する。
1万人が使う社内AIエージェント「Vera」
DoorDashが社内向けに構築したAIエージェント「Vera」は、従業員が自然言語で業務データに関する質問を投げかけると、会話形式で回答を返すシステムだ。「新製品のローンチからの推移は?」「Arby'sの過去90日間の時間帯別キャンセル数は?」といった問いに答える。これまでこうした質問はデータチームが担っていた。
DoorDashが抱えるデータの規模は200,000以上のデータセット、総量350ペタバイト。これだけの規模になると、「どのデータを使うべきか」を判断すること自体が難題になる。同社のシニアアナリティクスマネージャーは「上流のデータソースが非常に断片化されている」と説明している。
既製品AIツールとの比較で見えた差
DoorDashは100問のサンプル問題を使い、Veraと市販のAIコーディングエージェントを比較テストした。両者は同じAIモデル上で動作させた(Veraが普段使うモデルとは異なる条件)。結果はVeraが**73%の正答率、市販ツールは48%**にとどまった。
差が出た主な原因は「適切なデータテーブルの選択」だ。市販ツールはここで失敗しやすい。Veraは検証済みのデータのみを参照するよう制限されており、この設計が精度向上に寄与している。
1,900問のテストで90%まで引き上げた改善プロセス
DoorDashはVeraを「学生の試験」のように評価する仕組みを設けている。テストセットはセールス、財務、プロダクト、オペレーションなど19領域にわたる1,900問以上で構成される。問題の出所は従業員からの実際の質問、各領域の専門家が作成したもの、過去のSlackスレッドや作業チケットからAIが下書きしたものと多様だ。各問題は専門家が承認し、採点は別のAIモデルが担う。
Veraの正答率はプロジェクト開始時の43%から90%へと上昇した。テストセット自体もこの過程で2回、2倍に拡張されている。改善要因についてDoorDashは「より高性能なAIモデルの採用も効いたが、より大きな改善はデータをモデルに合わせて整理し直したことからきた」と説明している。モデルの性能そのものより、データ整備の側が精度改善の主因だったという点は、同種の社内AI開発に取り組む組織にとって示唆的だ。
難易度別に3段階の分類、最上位は依然として課題
DoorDashは質問を3段階に分類している。
- レベル1:指標やトレンドの参照(ルックアップ)
- レベル2:ターゲティング、機会規模の推定、優先順位付け、リソース配分など意思決定に関わる分析
- レベル3:因果分析、実験結果の解釈、予測、重大な意思決定
Veraが苦手とするのはレベル3だ。途中で思考を止め、表面上は正しそうに聞こえるが浅い回答を返す傾向があったという。DoorDashはこれに対して「計画ステップ」を追加した。Veraはまず実行計画を提示し、従業員の承認を得てから処理を始める。精度は改善したが、14問のサンプルでは64%から100%の間でばらつきがあり、安定性はまだ課題として残る。
財務領域では手応えが出ている。数週間のテストを経たファイナンスディレクターは「難易度を問わず、戦略的財務の質問に対してうまく機能している」とコメントしている。
より広いAI活用の文脈で
Veraの展開はDoorDashのAI推進の一環だ。同社では別途、食料品のカートを2分以内に構築するオーダーエージェントも稼働している。ただしCEOのTony Xu氏は、外部AIエージェント経由の注文量はまだ少ないと述べている。
なお、企業の財務部門でのAIエージェント活用は業界全体でも慎重な状況が続く。元記事によれば、2025年9月時点で米国の大企業CFOのうちAIエージェントを実際の財務ワークフローに組み込んでいたのは**約7%**、パイロット段階は約5%にとどまるという。Veraが財務領域で手応えを示しつつある点は、この文脈において一つの注目事例となる。
DoorDashは引き続きレベル3の難問対応を次の課題として位置付けており、「回答速度の向上がコアビジネスの数値を実際に動かすかどうか」を今後示していく必要があると述べている。
詳細はDoorDash Gives 10,000 Employees an AI Data Analystを参照していただきたい。