9月22日、The Next Webが「AI model costs are pushing startups towards cheaper open weights」と題した記事を公開した。モデル利用コストの高騰を受け、スタートアップがOpenAIやAnthropicへの依存から脱却し、オープンウェイトモデルや自社モデルの構築へシフトしている実態について詳しく紹介されている。ただし、業界からは「自社モデル構築はコスプレに終わる」という反論も出ており、移行の現実は一筋縄ではいかない。
粗利がマイナス50%に転落——Harveyの実態が示すモデルコスト問題
法律特化AIスタートアップのHarvey(評価額156億ドル)は、2025年初頭に粗利率が約50%あったものが、6月には**マイナス50%**まで落ち込んだ。3月にAIエージェントをアップデートしたところ、ユーザーの利用量が急増。それに伴い、OpenAIやAnthropicへのモデル利用料が収益を食い潰した。
Harveyによれば、今年のトークン使用量は20倍に増加した。OpenAI・Anthropicはいずれも、ベースのサブスクリプション料金に加えてモデル利用量に応じた課金をエンタープライズ向けに適用しており、利用量が爆発的に増えればコストも比例して膨らむ。
Harveyはモデルの「借用」をやめた。
8月、同社は中国のAIラボMoonshotが開発したKimi K3をベースに自社でポストトレーニングした初の内製モデルをリリースした。なお、KimiはMoonshotが展開するAIアシスタントのブランド名であり、Kimi K3はそのベースとなる基盤モデルである。このモデルの投入とその他のAI利用方法の見直しにより、粗利はふたたびプラスに転じたとBloombergは報じている(Harveyは具体的な財務数値についてのコメントを拒否した)。
「オープンウェイト」モデルとは何か
記事中で繰り返し登場する「オープンウェイト(Open Weights)」とは、モデルの学習済みパラメータ(重み)を公開しているモデルを指す。よく混同される「オープンソース」との違いは、学習データやトレーニングコードまで公開されているかどうかにある。オープンウェイトモデルは重みのみを公開しており、ダウンロードして自社環境で動かしたり、独自データでファインチューニング(追加学習)したりすることが可能だ。NvidiaやMetaが公開するモデル群がその代表例にあたる。コストを抑えつつ自社ユースケースに最適化できる点が、スタートアップにとっての主な採用動機となっている。
同様の動きが業界全体に広がる
Harveyは例外ではない。
- Abridge(医療向け音声AI):Nvidiaのオープンウェイトモデルを使って臨床向けモデルを構築中
- Decagon(カスタマーサポートAI):顧客クエリの**80%**を自社モデルで処理するように移行済み
- Ramp(法人向けFinTech):6月に7億5000万ドルを調達し、初めてのモデルトレーニングを検討中。共同CEOのKarim Atiyehは「1年前はまったく意味がなかった。今はかなり意味が出てきた」と述べた
この流れを支えるのが資金の出し手でもある。SequoiaとGeneral Catalystがこのシフトに投資している。
サプライヤー側のリスクも顕在化
コスト問題だけがオープンウェイトへの移行を後押ししているわけではない。「依存リスク」も現実のものとなっている。
MistralのCEO Arthur MenschはAnthropicがWindsurfへのAPIアクセスを遮断しながら自社のClaude Codeを構築したことを例に挙げ、クローズドモデルはプロバイダーに過大なレバレッジを与えると警告していた。
9月にはOpenAIがコードエディタのCursorとの契約を打ち切った(SpaceXによるCursor買収後、過去の利用規約違反を理由として)。EUのData Actは顧客がサプライヤーを乗り換える権利を定めているが、今回のようにサプライヤー側が契約を終了するケースは対象外だ。
一方でAnthropicも手をこまねいているわけではない。投資家向けフォーラムで「スタートアップが自社モデルを構築している」というスライドを提示しつつ、「Harveyであっても最も難しいタスクにはOpusが必要だ」と訴求している。
「自社モデルかどうか」は本当に重要か
欧州では、ストックホルム拠点の法律AIスタートアップLegoraが18か月で年間収益1億ドルを達成し、1,200社以上にサービスを提供している。同社はどのモデルを使っているか一切公表していない。
この事実を踏まえ、Menlo VenturesのパートナーMatt Kraningは冷静な見方を示す。「自社モデルを持つかどうかは、まったく的外れな問いだ。ほとんどの場合、コスプレに終わる」。
実際のところ、Harvey自身も最難関タスクにはAnthropicのOpusを使い続けている。完全な内製化ではなく、コストの高い外部モデルへの依存度を下げることが現実的な着地点のようだ。自社モデルへのシフトは脱OpenAIという目的ではなく、利益構造を守るためのコスト最適化として捉えるのが、業界の実態に近い。
詳細はAI model costs are pushing startups towards cheaper open weightsを参照していただきたい。