9月21日、Scientific American が「Did OpenAI solve the wrong Navier-Stokes problem?」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIが解いたナビエ・ストークス問題の証明が、数学者たちが本当に解きたかった問題とは別物だった可能性について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
OpenAIの「抜け穴」証明
2週間前、OpenAIはナビエ・ストークス問題の解決を主張した。これはクレイ数学研究所が設定したミレニアム懸賞問題の一つで、賞金は100万ドルだ。証明は社内のLLM(大規模言語モデル)が生成したものである。
ナビエ・ストークス方程式とは、流体の流れを記述する偏微分方程式だ。問題の核心は「方程式が"爆発(blowup)"を起こすかどうか」、つまり「流体の速度が特定の点で無限大になる状況が数学的に生じうるか」を証明することにある。現実世界では流体が無限の速度になることはないため、この爆発が起きるかどうかは方程式の信頼性そのものに関わる。
ところが、問題の核心に「任意」の要素がある。外力(重力など、流体の動きに影響を与える外部の力)を方程式に含めるかどうかだ。クレイ研究所が2000年に公表した公式問題文(数学者Charles Feffermanによる)には、外力を用いる「選択肢C」が明記されている。
OpenAIのLLMはこの選択肢Cを使い、非常に人工的に設計された外力を用いて爆発を引き起こすことに成功した。形式上、クレイ問題の定式化は満たしている。
しかし数学コミュニティの反応は冷淡だ。シカゴ大学の数学者Luis Silvestre はこう述べている。
「最も重要な問題は未解決のままだ。クレイ問題は解決されたかもしれないが、ナビエ・ストークス方程式の本質的な問題は解かれていない。」
「抜け穴は永遠に閉じられない」
より深刻なのは、先週金曜日(9月19日)に3人の数学者が論文をarXivに投稿し、OpenAIの手法は外力なしの問題に拡張できないことを数学的に証明したことだ。
数学者のDiego Córdobaはこう語る。
「現実のすべての流体は何らかの外力を受けている。だから外力を含めること自体は理にかなっている。」
一方、多くの専門家が「ナビエ・ストークス問題」と言うとき念頭に置くのは、外力なしのケースだ。流体の内的な力だけで爆発が起きるかどうか——それがより純粋で基本的な問いとされている。数学者Luis Martínez-Zoroa も「他のグループは明示的に外力なしのシナリオを考えていた」と認める。
新しい論文が示したのは、OpenAIの手法で使われた外力は現実には存在しえない形式のものであり、それを取り除けば爆発も消えるという事実だ。つまり抜け穴は存在するが、その抜け穴を使う限り、数学者が本当に知りたい答えには永遠に到達できない。
Silvestre はこう総括する。
「彼らは本質的に、外力ありの定式化が我々の本当に解きたかった問題とは異なることを証明してしまった。」
LLMが苦手な数学の種類
ここに興味深い示唆がある。数学者のGonzalo Cao-Labora は次のように言う。
「LLMは明示的に構築するタスクが特に得意で、新しい理論を作ることは——今のところ——不得手だ。」
爆発の「存在を示す」構成的証明はLLMが強い。一方、「爆発が起こりえないことを示す」非存在の証明は、人間の数学者がまだ優位を持てる領域かもしれない。Cao-Labora は「LLMと比べて我々は不利が小さいか、むしろ有利かもしれない」と述べる。
もっとも、同氏はこうも付け加えている。
「この1年でAIがいかに急速に進化したかには驚かされる。1年後どうなっているかは分からない。コミュニティへの警鐘だ。」
OpenAIの証明がどう評価されるかは、今後の研究次第だ。外力なしの爆発が本当に起きないとわかった場合、「クレイ問題の定式化に外力を含めるべきではなかった」という見直しにつながる可能性もある。
詳細はDid OpenAI solve the wrong Navier-Stokes problem?を参照していただきたい。