9月19日、The Atlanticが「China's AI Rollout Is Messier Than It Looks」と題した記事を公開した。中国のAI普及が表面上の勢いとは裏腹に、国内では雇用不安・導入失敗・党の統治リスクが交錯する混乱した状況にあることを詳しく伝えている。
「昨日まで普通だったのに、今日突然すべてが消えた」
俳優のXu Pengさん(30歳)は、中国で人気の短編ドラマシリーズに出演する仕事をつかんだと思った矢先、制作会社からこう告げられた。「AIで動画を作るから、撮影はキャンセルだ」と。
この体験は、中国全土の労働者が抱える恐怖の縮図だ。中国のSNSには「蒸留される(distilled)」という独特の表現が広まっている。雇用主が従業員のデータをAIモデルの学習に使い、その人間ごと代替してしまうことを指す。
Douyin(中国版TikTok)に投稿したNanbeiというユーザーは、退職後に前職の会社が自分のチャット数千件・文書数百本・業務メールすべてをAIシステムに学習させ、「自分の名前を持つデジタルロボット」に業務を引き継がせていたと報告した。「会社は私に1円も払わなくていい。なのに私を永遠に"残業"させ続けられる」と彼女は書いた。RedNote(中国版Instagram)ではXiexiaoyaというユーザーが「AIの自分のほうが私より人気になるかもしれないという恐怖で眠れない」と打ち明けた。
AIブームの熱狂と、その急速な冷却
中国企業のAI導入が表面的な熱狂で終わるケースも相次いでいる。
DeepSeekの「オールインワンマシン」問題:昨年、中国のAIラボDeepSeekが大規模言語モデルを公開すると、企業が競って採用に走った。ただし、ソフトウェアサブスクリプション購入(中国ではソフトウェア海賊版の歴史から不人気)の代わりに、DeepSeekをインストールしたミニデータセンターを丸ごと購入するという独特の方法が流行した。国有企業や政府機関の間で「先進的に見せたい」という動機から特に人気を集めたが、実際には非効率で、買い手は「投資に見合わない」と気づき、売上はすぐに落ちた。
「ロブスターを育てる」フィーバーと崩壊:今年初め、オープンソースの自律型AIエージェント「OpenClaw」が話題になった。中国のネット民はインストールと設定作業を「ロブスターを育てる(raising a lobster)」と呼び、Baiduは3月の北京イベントで会場に生きたロブスターの水槽を設置して盛り上げた。地方政府もOpenClawを使うスタートアップへの補助金を表明した。
しかし幻滅は早かった。このエージェントは詳細な指示なしに動作させるために大量の個人データを必要とし、メールを無断削除したり、クレジットカードで無断購入したりする事例が続出。「デジタル従業員を手に入れると思ったら、金食い虫で時限爆弾だった」(HotdogWang氏、RedNote)。あるDouyin ユーザーは「周りがやってるから入れたが、72時間でアンインストールした」と投稿した。
共産党の「板挟み」
中国政府はAIを2035年までに経済・社会のあらゆる分野に浸透させる計画を掲げ、数千億ドル規模の国家投資を続けている。だが、その推進役である党は今、深刻な矛盾に直面している。
国家統計局の発表によれば、**若年失業率は約20%**に達する中、AIによる雇用代替が加速すれば社会不安が高まり、党の統治基盤を揺るがしかねない。米外交問題評議会(CFR)シニアフェローのCarl Minzner氏はこう指摘する。「名目上は共産主義国家において、党エリートが企業と組んでプロレタリアートをロボットで代替するという構図には、政治的リスクがある。不満を持つ人々が大量に生まれる可能性がある」。
今年、杭州の裁判所はAIによる解雇で賠償額が不当に低かったとして、技術者側の訴えを認める判決を下した。一地方裁判所の判決にすぎないが、「大規模なAI解雇は政治的に受け入れがたい」という当局からのシグナルと受け取られている。
ジョージワシントン大学でAI政策を研究するJeffrey Ding氏は、中国指導部が「政治的必要性と経済的必要性の間でバランスを取らざるを得ない」状況だと分析する。「AIには大規模な生産性向上の潜力があるが、それが大規模な雇用喪失を招くなら、党はAI普及の速度を落とす方向に舵を切らざるを得なくなる」。
米中AI競争の「実像」
米中のAI競争をめぐっては、米国側でも「規制強化が競争力を損なう」という議論が続いており、トランプ大統領もその立場からAI安全規制の見直しを訴えてきた。そうした文脈の中で「中国はAI導入で先行している」という見方が広まりがちだが、実態はこれほど複雑だ。国家主導のトップダウン普及と、現場の混乱・雇用不安・政治リスクが綱引きしている。
なお、記事中では「中国人はAIに対してアメリカ人より熱狂的」という調査結果も紹介されているが、SNS上の声はその裏側を示している。「人類が絶滅するか、AIをシャットダウンするか、二択しかない」(Douyin投稿)——こうした終末論的な不安は、中国でも米国と変わらない。
俳優のXuさんは今、アーチェリーと乗馬の指導で収入を得ながら、AIも活用しつつ自ら短編ドラマを制作する計画を立てている。「出演者は生身の人間にする。AIは生きた俳優を完全に代替できない」と彼は言う。
詳細はChina's AI Rollout Is Messier Than It Looksを参照していただきたい。