9月16日、Tom OuyangとMalini Jaganathan(Gemini Audio Team)が「Introducing Gemini 3.8 Live and 3.8 Live Extended Thinking」と題した記事を公開した。今回発表されたのは、リアルタイム音声対話に特化した2つの新モデル「Gemini 3.8 Live」と「Gemini 3.8 Live Extended Thinking」だ。なかでも注目すべきは後者が持つ「考えながら話す」設計で、多段階推論を実行しながら会話を止めないという従来の音声AIが抱えていた課題への直接的な解答となっている。Artificial AnalysisのSpeech to Speech Quality Indexでは総合1位(スコア82.6)を獲得しており、単なる性能向上にとどまらない設計上の転換点として注目に値する。
2モデルの位置づけ
Googleは今回、用途の異なる2つのモデルを同時投入した。
- Gemini 3.8 Live:スケールとコスト効率を重視した設計。流暢な対話と視覚的なグラウンディング(画像・映像を文脈として取り込む能力)を組み合わせ、大規模展開に向けたバランス型。
- Gemini 3.8 Live Extended Thinking:高複雑度タスク向け。多段階推論(multi-step reasoning)を音声対話と並行して実行できる。
音声AIをプロダクトに組み込む際、開発者がコスト・精度・レイテンシのどこにボトルネックを感じるかによって選択肢が変わる。Gemini 3.8 Liveはスループット重視のエンタープライズ展開や大規模ユーザー対応に、Extended Thinkingは精度と複雑なタスク完遂能力が求められる用途にそれぞれ対応するという、役割分担の明確な二本立てだ。
ベンチマーク数値
エンジニアが最も気にするであろう数値から整理する。
Gemini 3.8 Live Extended Thinkingは、Artificial AnalysisのSpeech to Speech Quality Indexで総合1位(スコア82.6)を獲得。エージェント的なタスク完遂能力を測るτ-Voice(音声エージェントの行動達成率を評価するベンチマーク)では68.6%、金融領域特化のSierra社が提供するτ-Voice-bankingベンチマークでは35.1%でリードしている。音声理解・推論精度を包括的に評価するBig Bench Audioでは**97.7%**というスコアを記録している。
Gemini 3.8 Liveは、Speech Agent Arena(複数の音声エージェントをユーザー評価で比較するリーダーボード形式の評価プラットフォーム)で2位を確保。コスト効率を維持しながらスケールに対応できる設計となっている。
ServiceNow社のEVA-Bench(Enterprise Voice Agent Benchmark:企業向け音声エージェントの精度と会話品質を評価するベンチマーク)においては、両モデルが複雑なワークフローにおける精度と会話品質のトレードオフ(Paretoフロンティア)を押し広げたとされる。
技術的な特徴
「考えながら話す」Extended Thinking
エンジニア視点で最も面白い点は、推論と発話を同時並行で実行するExtended Thinkingの設計だ。
従来のLLMベースの音声エージェントは、複雑な推論タスクを処理している間は応答が止まる問題があった。3.8 Live Extended Thinkingはこの問題に対して、「Let me check that…」のような早期言語キュー(early verbal cues)を用いてユーザーに処理中であることを自然に伝えつつ、バックグラウンドで多段階タスクを継続する設計をとっている。
デモとして公開されている用途には以下のものが含まれる:
- 音声フィードバックと手書きスケッチからリアルタイムでReactコンポーネントを生成
- 非同期の関数呼び出しを伴う多段階の予約処理を会話を止めずに実行
- 音声入力だけでビジネスプランとマーケティングツールキットを即時生成
バックグラウンドでのツール実行
Gemini 3.8 Liveは、ツール呼び出しやAPI callをバックグラウンドで実行しながら会話を継続できる。ユーザーのリクエストを受け取ったことを即座に返答しつつ、処理は裏で走らせる設計で、会話の中断を最小化する。
多言語・視覚対応
- 97言語をサポートし、会話の途中での言語切り替えを自動検知・対応
- 映像・画像をほぼリアルタイムで処理し、視覚的な文脈を対話に組み込む(従業員オンボーディングのリアルタイムQ&Aや、チェスのボード読み取りなどのデモが公開)
開発者・エコシステムへの展開
Gemini Live APIを通じて、Agora、Fishjam、LangChain、LiveKit、Pipecat、Vercel、Vision Agentsといったプラットフォームがすでに対応している。これらのプラットフォームはリアルタイムメディアストリーミングのインフラ部分を担うため、開発者はUX設計に集中できる。
エンタープライズ側では、Salesforce、Genspark、Lumerisとの連携が発表されており、レイテンシ・流暢性・ツール呼び出し能力が評価されているとされる。
SynthIDによる透かし
Googleは、AIが生成したすべての音声出力に**SynthID**と呼ばれる透かし(watermark)を埋め込んでいる。人間の耳には聞こえない形で音声データ内に直接織り込まれており、AI生成コンテンツの検出を可能にしてフェイク音声・誤情報の拡散を抑止する仕組みだ。
提供状況
3.8 Liveは本日よりローリングアウト開始:
- 開発者向け:Gemini APIおよびGoogle AI Studio
- エンタープライズ:Gemini Enterpriseでプライベートプレビュー、Gemini Enterprise for Customer Experienceにも近日提供予定
- 一般向け:Search Live
3.8 Live Extended Thinkingも本日よりローリングアウト開始:
- 開発者向け:Gemini APIおよびGoogle AI Studio
- エンタープライズ:Gemini Enterpriseでプライベートプレビュー
- 一般向け:Gemini Live(Google AI ProおよびUltraサブスクライバー向けにDocs、Gmail、Keepで利用可能)
詳細はIntroducing Gemini 3.8 Live and 3.8 Live Extended Thinkingを参照していただきたい。