9月17日、The Next Webが「Google DeepMind launches the DeepMind Institute」と題した記事を公開した。Google DeepMindがAGI(汎用人工知能)研究と議論のためのプラットフォーム「DeepMind Institute(DMI)」を立ち上げ、創業者たちが政策・タイムライン・安全性について踏み込んだ見解を発表した。
Google DeepMindがAGI専門の研究所を設立
ディレクターを務めるのは、Google DeepMind共同創業者でChief AGI ScientistのShane Legg、同じく共同創業者でAlphabetのチーフサイエンティストでもあるDemis Hassabis、そしてGoogleの研究・ラボ・技術・社会担当プレジデントのJames Manyikaの3名だ。LeggはManaging Editorも兼ねる。
注目すべき点として、同研究所は「掲載する論考は著者個人の見解であり、Googleの公式見解ではない」と明示している。Google DeepMind、Google、そして外部の研究コミュニティからも研究者が論考を発表する予定で、「必ずしも意見が一致するわけではない」と述べている。
AGIの現状認識と安全性への懸念
立ち上げ論考では、AGIを「人間の脳が持つすべての認知能力を示すシステム」と定義している。現在のシステムはまだ一部の基本的タスクで失敗するものの、「そのギャップは近く埋まると予想している」と述べた。
現在の懸念事項として、サイバーセキュリティとバイオリスクを挙げている。さらに「将来の自己改善型システムにおける制御喪失の可能性」も課題として名指しした。8月にはDeepMindの幹部が、AI投資を自己改善する機械と結びつける発言をしている。
LeggはFinancial Timesの取材に対し、AIの能力が安全管理を上回ってはならないと語った。また、AnthropicのCEO Dario Amodeiが9月12日に主張した「フロンティアモデルのリリースを(停止はしないが)減速すべき」という提言について、「方向性として興味深く、検討に値する」と評した。
AGI到達宣言については、NvidiaのJensen Huang(9月7日)やOpenAI(9月4日)が相次いで主張する中、Leggは「AGI達成を宣言するのは時期尚早」とFTに語っている。また、「**2028年までに『最低限の』AGIが実現する確率は50%**」という自身の予測について、依然「納得している」とのことだ。ここでいう「最低限のAGI」とは、完全な汎用知性ではなく段階的な達成基準を指す留保表現であり、全面的なAGI実現の宣言とは区別される。
この研究所の設立と同週、7月にDeepMindのAGI安全チームを去ったBilal Chughtaiが安全性に関する警告を発していることも、業界の受け止め方を考えるうえで押さえておきたい動向だ。DMIが安全性議論を研究所の中心課題として明示していることは、こうした懸念への応答としても読める。
最大の読みどころ:AGI経済政策の11の選択肢
ローンチと同時に4本の論考が公開されたが、エンジニアやテック業界関係者にとって最も具体性が高いのが、Google DeepMindの経済学者Julian JacobsとAGI Economics担当ディレクターAlex Imasによる「Economic policy for AGI」だ。
両者は文献レビュー、調査、そして51名の実在する経済学者のサーベイデータをもとに構築した51体のAIエージェントを使い、11の政策を評価した。なお、この「AIエージェント」とは実在の経済学者本人ではなく、その回答傾向をモデル化したシミュレーション上の存在である。
「単一の施策がすべての答えになるわけではない」としつつ、AGIによる経済的影響のシナリオに応じた「後悔が最も少ない(least-regret)」3つの対応策を提示している:
- 軽度の混乱: 失業保険の拡充、勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)の拡大、企業主導の再訓練
- 中程度の雇用喪失: 税額控除を負の所得税(Negative Income Tax)に転換
- 労働・資本の分離: GDPに占める労働分配率が持続的に低下した場合に限り、「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル(Universal Basic Capital)」を発動
ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)については「高コストで粗い手段であり、必要な層への集中支援に失敗する可能性がある」と否定的な評価を下している。
調査によると、アメリカ人の85%が公的資金による再訓練を支持し、72%が失業保険を支持。ユニバーサル・ベーシック・キャピタルへの支持は54%だった。一方、11の政策中、個人の主体性(エージェンシー)スコアはユニバーサル・ベーシック・キャピタルが最高の76.3/100を記録したが、実現可能性スコアは33.1と、連邦雇用保証に次いで低い結果となった。
その他の公開論考
ローンチ時に公開された残り3本の論考も、それぞれ異なる角度からAGIを論じている。
- Rohin Shah・Anca Dragan「The case for reasoning transparency」:AIの推論過程を透明化することの意義を論じる
- Stephen Cave「Principles for a new utopianism」:AGI後の社会像をユートピア論の観点から検討
- Demis Hassabis「A framework for frontier AI and the dawning of a new age」:フロンティアAI全般に対するHassabis自身の包括的な見解を示す
いずれも「著者個人の見解」という位置づけであり、研究所が多様な論点を意図的に並置していることがうかがえる。
詳細はGoogle DeepMind launches the DeepMind Instituteを参照していただきたい。