9月11日、Mark Samuelsが「This CIO doesn't 'hire engineers to write code': 3 AI fundamentals he prioritizes instead」と題した記事を公開した。Chase(JPモルガン・チェース傘下の個人向け銀行部門)のCIOを務めるGill Hausは、「私はエンジニアをコードを書くために採用しているわけではない」と断言する。実装力よりも判断力を重視するというこの採用哲学は、AIエージェントが実務に深く浸透しつつある今、エンジニアのキャリアと組織設計の両面に鋭い問いを投げかけている。
「コードを書かせるためにエンジニアを雇わない」
Hausはエンジニアの役割変化について、率直な持論を語った。
「私はエンジニアをコードを書くために採用しているわけではない。そう言うと奇妙に聞こえるかもしれない。なぜなら、それこそがエンジニアを雇う理由のはずだから」
「だが今日、私がエンジニアを採用するのは、何を書くべきかを判断できる人材としてだ。これは大きな違いだ。半年前まではコードを書かなければならなかった。しかし今はその必要がない。エージェントがサポートしてくれるからだ。これにより、エンジニアが本当にやりたいことの邪魔をしていた大量の単調作業がなくなる」
さらにHausは、製品リーダーがコードを書き、エンジニアが仕様を設計するという役割の逆転現象がすでにChase社内で起きていると明かす。「かつてストーリー(要件定義)を書いていたビジネス側のプロダクトリーダーが、今はより多くのコードを書けるようになっている」というのだ。
なお、業界全体で見ても、91%のプロフェッショナルが自社のAI活用はまだ不十分だと回答しているという調査結果があり、ChaseのようなAI先行事例はエンジニア組織の参考になりうる。
3つの原則
Hausが語るAI活用の核心は、以下の3つの原則に集約される。
1. シームレスなサービスを構築する
Chaseは2024年夏、LLM Suiteと呼ばれる社内エージェントプラットフォームを全社展開した。フロンティアモデルとオープンソースモデルの両方にアクセスでき、ドキュメントのレビュー、仕様書の作成、質問への回答などに全社員が利用できる体制を整えている。数万人規模の従業員を擁するJPモルガン・チェースがこの規模でLLMプラットフォームを社内展開していることは、エンタープライズにおけるAI基盤整備の一つの到達点として注目に値する。
Hausが強調するのは、AIを業務プロセスの深部に組み込むことだ。顧客が電話をかけてきた際、機械学習で意図を把握し適切なオペレーターへ素早くつなぐ。通話中は類似の技術でニーズを予測する。こうした仕組みは顧客には見えない。
「本当の価値は、顧客が体験の改善に気づかないほどシームレスに動くことだ。顧客にとってはただ"うまくいく"だけでいい」
2. セキュアな製品を届ける
金融機関として高度な規制環境に置かれるChaseは、AI活用においても「迅速に、しかし責任を持って」を徹底する。
Hausが特に強調するのはプロアクティブなセキュリティだ。「ソフトウェアを常に最新の状態に保ち、脆弱性に迅速に対処し、境界を守り続けることが極めて重要だ」とHausは力を込める。AIがバグの特定や不正アクセスの防止にも活用されている点も言及されている。
3. 信頼できるアウトプットを確保する
AIエージェントは確率的な推論エンジンであり、同じ入力でも常に同じ出力を返すわけではない。Hausはこれをレシピに例えた。「マヨネーズの種類が変わる程度なら問題ない。しかし金融に関するアウトプットは正確でなければならない」。
そのためChaseは多くのシナリオで**Human-in-the-loop(人間が判断ループに介在する設計)を採用している。AIの出力を最終的に人間が検証・承認する仕組みを残すことで、確率的なエラーを許容できない金融業務の信頼性を担保する狙いだ。そして求めるエンジニア像は、コードを書ける人ではなく、エージェントが正しく動作しているかを判断できる人**となる。
「ソフトウェアを構築する際に、スケール、使用すべきコンポーネント、アーキテクチャ設計など、アウトカムとして何が真であるべきかを明確にすることが本当に難しい部分だ」
エンジニアへの示唆
Hausの発言を整理すると、AIエージェント時代に求められるエンジニア像は明確だ。「何を作るべきか」を判断し、エージェントの出力の品質を評価し、アーキテクチャの方針を定める人材である。コーディング自体の希少性が下がる中で、設計判断力と評価能力の価値は上がるという構図だ。
この変化はChaseに限った話ではない。GitHubのCopilot導入調査でも示されているように、AIによるコード生成支援が普及するほど、「何を生成させるか」「生成されたものが正しいか」を判断するレイヤーの重要性が増す。AIエージェントが自律的にタスクをこなす時代において、エンジニアの競争優位はコードの実装速度ではなく、問題定義・品質評価・アーキテクチャ判断という上位レイヤーへと移行しつつある。
※編集部の考察:この役割シフトは、ジュニアエンジニアの育成経路にも影響を与える可能性がある。「コードを書きながら設計を学ぶ」という従来の学習曲線が成立しにくくなるとすれば、組織はどのように判断力を育てるかという新たな課題に直面することになる。
詳細はThis CIO doesn't 'hire engineers to write code': 3 AI fundamentals he prioritizes insteadを参照していただきたい。