9月15日、PyMNTSが「Anthropic Makes $13.7 Compute Deal With Trump-Linked Rum Group」と題した記事を公開した。完成すら保証されていないデータセンターに対して137億ドルを約束し、しかも相手はトランプ大統領のSNSをホストする保守系プラットフォーム企業——「AI安全性」を最前面に掲げるAnthropicの今回の契約は、その額面と政治的文脈の両面で注目を集めている。
AnthropicとRum Groupが6年間・137億ドルの契約
The Informationが9月14日(月)に報じたところによると、AnthropicはRum Groupと6年間にわたるコンピュートリース契約を締結した。契約金額は137億ドル(約2兆円)に上る。
Rum Groupは、保守系動画プラットフォーム「Rumble」を傘下に持つ企業だ。RumbleはトランプSNS「Truth Social」もホストしており、ピーター・ティールや副大統領J.D.ヴァンスが初期投資家に名を連ねる。2026年6月にはドイツのネオクラウド(新興クラウドインフラ事業者)「Northern Data」を買収してAIクラウド事業に参入し、社名をRum Groupへと改めた経緯がある。
今回の契約は、Anthropicがここ一年ほどの間に積み重ねてきたコンピュートリース契約群の一部だ。Google、SpaceX、NscaleなどのネオクラウドとのP既存契約……失礼、既存契約を合計すると、少なくとも14.8ギガワットのコンピュート容量を確保しており、今後10年間のコストは最大5,170億ドルに達するとThe Informationは伝えている。こうした大規模調達の背景にあるのは、AnthropicのClaude CodeやCoworkへの需要急増だ。
契約の不確実性:データセンターはまだ建設中
ただし、この契約には重要な不確実性がある。
Anthropicがリースするのは、米ジョージア州に建設中のデータセンターの計算リソースだ。Northern Dataは2025年時点で「2026年末に稼働開始」と説明していたが、現時点でそのスケジュールが維持されているかは不明だという。
さらに深刻なのは資金面だ。Rum Groupはデータセンター建設費を借入で調達する計画を持っており、2026年8月の開示では、施設建設と機器調達に必要な資金がまだ確保されていないことが明らかになっている。つまりAnthropicは、完成すら保証されていないインフラに対して137億ドルのコミットメントを行っている構図だ。
AIインフラ需要の急騰を背景に、確実性よりも容量確保を優先する判断がなされたとも読めるが、契約相手の財務的な脆弱性はリスク要因として残る。
「AI安全性」企業の政治的文脈
この契約が注目される理由のひとつは、その政治的な立ち位置だ。Rum GroupはTruth Socialのホスティング企業であり、ティールやヴァンスという現政権と近い人物が出資する企業でもある——元記事の原題が示す「Trump-Linked」とはこうした関係性を指している。「AI安全性」を社是とするAnthropicとの組み合わせが、表面上は奇妙に映るのはこのためだ。
Anthropicは2021年にOpenAIから分離独立した企業で、創業以来「Constitutional AI」と呼ぶ安全性重視の開発方針を掲げてきた。同社は米国AIセーフティ研究所(AISI)との連携や政策提言にも積極的で、業界内では安全性議論のリーダー的存在として位置づけられてきた経緯がある。その企業が、政治的に色のついた相手と巨額のインフラ依存関係を結ぶことへの違和感は、単なる印象論ではなく、事業判断と企業理念の整合性を問う問いでもある。
Dario Amodeiの「独立評価者」提唱——出典はThe Information
同じくPYMNTSの記事では、AnthropicのCEO・Dario Amodeiが、主要AI企業や政府機関に独立した第三者評価者(independent evaluator)を組み込む計画を提唱したと報じている(この報道の一次情報源はThe Informationであり、PYMNTSが引用する形で紹介したものだ)。強力なAIモデル開発にブレーキをかける狙いがあるとされるが、PYMNTSはその構造的な弱点を指摘している:
「評価者を招くのもAnthropicで、報酬を支払うのもAnthropicであり、一部の情報を非開示にする権利も持つ。信頼性のある仕組みには、共通の認定基準、公表権の保護、そして重大な調査結果を規制当局に直接報告できる経路が必要だ。さもなければ評価者は、バッジを持った高給コンサルタントになりかねない」(PYMNTS)
AIの安全性を訴えながら、規制の枠組み設計にも大きな影響力を持とうとする姿勢——Rum Group契約のような政治的な文脈と並べて読むと、Anthropicをめぐる「利害構造」の複雑さが浮かび上がる。安全性の旗手であることと、政治・資本のエコシステムに深く組み込まれていくこととの間の緊張は、今後も問われ続けるだろう。
詳細はAnthropic Makes $13.7 Compute Deal With Trump-Linked Rum Groupを参照していただきたい。