9月14日、Euronewsが「China's Xi Jinping proposes BRICS 'open-source AI zone'」と題した記事を公開した。中国の習近平国家主席がBRICS諸国に対し「オープンソース・インクルーシブAIに関するイニシアチブ」の設立を提唱したというニュースだ。DeepSeekやQwenといった中国製オープンソースAIモデルを外交的な切り札として活用し、アメリカ主導のAIエコシステムに対抗する——その地政学的な意図が、この提案の背後に透けて見える。
「オープンソースAIゾーン」とは何か
習近平がCCTV(中国国営放送)の演説で示したイニシアチブは、BRICS加盟国を対象とした多層的な協力枠組みだ。具体的には以下の要素が含まれる。
- 大規模言語モデル(LLM)の開発と応用における協力の推進
- BRICS諸国を対象としたAIに特化した研究・トレーニング機関の設立
- 「AIのオープンなエコシステム」の構築
さらに習近平は、「幅広い合意に基づくグローバルなAIガバナンスの枠組み」の構築も訴えた。
ここで言うLLM(Large Language Model=大規模言語モデル)とは、膨大なテキストデータを学習させた大規模なAIモデルの総称で、ChatGPTやGeminiに代表されるような対話・文章生成AIの基盤技術を指す。「オープンソース」とは、そのモデルのアーキテクチャや重みパラメータを公開し、誰でも自由に利用・改変・再配布できる形態のことだ。
「AIに特化した研究・トレーニング機関」の具体的な設置場所や運営主体、予算規模については現時点では明らかになっていない。ただし、BRICS加盟国に向けた教育・技術移転の基盤として機能することが想定されており、中国の技術標準をグローバルサウスに浸透させる足がかりになりうる点が注目される。
BRICSとは何か——設立の経緯と現在の位置づけ
BRICSを理解するには、その成立の経緯を整理しておく必要がある。「BRIC」という概念は2001年にゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールが命名したもので、ブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国の高成長を予測した経済論文が起源だ。この4カ国が政治的な対話の枠組みとして首脳会議を初めて開催したのは2009年であり、翌2010年に南アフリカが加わってBRICS(S=South Africa)が成立した。その後、2024年にはイランやエジプトなど複数国が加盟し、加盟国数は拡大している。
西側先進国が主導するG7やIMF・世界銀行体制に対する代替的な影響力の場として機能してきたBRICSは、経済規模では世界GDPの約3割を占めるまでに成長している。今回の「オープンソースAIゾーン」提案は、その政治的文脈と完全に呼応する動きだ。
地政学的文脈:なぜ「オープンソース」が外交カードになるのか
この提案を読み解く上で重要なのは、中国とアメリカのAI開発スタンスの鮮明な対比だ。
中国のAI企業はオープンソースモデルで世界をリードしている。代表格であるDeepSeekは、中国の量子投資ファンド出身チームが開発した高性能LLMで、2025年初頭に公開したモデルが低コストかつ高性能であるとして世界的な注目を集めた。同じくQwenはアリババグループが開発・公開しているLLMシリーズで、多言語対応と高いベンチマーク性能が特徴だ。いずれもモデルの重みを公開しており、企業や研究者が自由に利用・ファインチューニングできる。
一方、アメリカの主要AI開発者(OpenAI、Anthropicなど)は基本的にクローズドなアプローチを採用し、モデルの内部構造を非公開としてAPIアクセスを有償で提供する形態をとる。
この非対称性が、今回の提案の核心にある。「オープンソース」を旗印にすることで、独自のAIインフラを持てない新興国・途上国に対し、中国のAI技術スタックへの依存を促す構図が生まれる。BRICS諸国の多くは欧米のクラウドサービスやAI APIに対してコスト面・主権面での懸念を抱えており、「自国で改変・運用できるモデル」の提供は実利的な訴求力を持つ。
加盟国側の具体的な反応については本記事執筆時点では詳細が伝えられていないが、インド・ブラジルといった独自のデジタル主権政策を推進する国々にとっては、欧米依存を分散させるオプションとして一定の関心を持って受け止められる可能性がある。
米中AI外交の行方
記事ではあわせて、習近平が今月中にアメリカを訪問し、トランプ大統領と会談を行う予定であることも伝えられている。急速に進化するAI技術に対して人類が制御を失うリスクへの懸念が高まる中、AIガバナンスが議題に上がることは確実視されている。
BRICSへのオープンソースAIゾーン提案と、米中首脳会談でのAIガバナンス交渉——この二つが同時進行する構図は示唆的だ。多国間フォーラムでの独自ルール形成と、二国間対話での影響力行使を並行させることで、中国は国際的なAI秩序の形成において独自のポジションを確立しようとしている。
グローバルなAIガバナンスをめぐる議論はOECD AI政策観測所や国連AI諮問機関など複数の場で進行中だが、BRICS主導の枠組みが加わることで、その多極化がさらに加速する可能性がある。
詳細はChina's Xi Jinping proposes BRICS 'open-source AI zone'を参照していただきたい。