9月15日、The Next Webが「Anthropic has built a Claude tool for financial advisers」と題した記事を公開した。AnthropicがBlackRockやVanguardなどの金融大手と連携した金融アドバイザー向けClaudeツールを発表し、欧州のMiFID II規制との関係が注目を集めているという内容だ。
「投資助言はしない」——その一言が欧州では法的境界線になる
AnthropicはClaude for Financial Advisorsを発表した。BlackRock、Vanguard、Charles Schwab、iCapitalのポートフォリオ分析・リスク管理ツールとClaudeを接続し、金融アドバイザーのリサーチ・管理業務・ポートフォリオ監視を高速化するというものだ。
発表に際し、Anthropicの金融サービス部門責任者(肩書きは元記事の表記に基づく)Jonathan Pelosiはこう述べた。
「ClaudeからはInvestment Advice(投資助言)を明示的には提供しません。その判断は専門家に委ねます」
米国では免責事項に聞こえるこの一文が、欧州では法的な境界線として機能する。
MiFID IIの「5段階テスト」とAIの関係
欧州連合の金融商品市場指令MiFID II(Markets in Financial Instruments Directive)は、「投資助言」を「個人への推奨」と定義し、それに該当するかどうかを5つの累積的要件で判断する(ESMAの監督ブリーフィング参照)。
その要件のひとつは、「特定の金融商品がその人物に適切であると提示されているかどうか」だ。ESMAはこれを明示的な形だけでなく、暗示的な形でも成立しうるとしている。「explicitly(明示的に)は提供しない」というPelosiの言葉が意図的にその語を選んでいることは見逃せない。
さらに、ESMAは2024年5月に各社へ向けたガイダンス(原文)で「AIを使用しても、顧客の最善の利益のために行動する義務は何ら変わらない」と明言している。同ブリーフィングでは、「アドバイザー」への言及は自動化・半自動化されたシステムも対象に含むとされており、AIツールを経由した出力も同様に規制の射程に入る。※このESMAガイダンスへの言及は元記事に基づくものだが、編集部でも原文を参照・確認している。
なお、EU AI法はここでは直接の規制手段にはならない。同法の高リスクカテゴリは信用スコアリングや生命・健康保険の価格設定を対象とするが、投資助言やポートフォリオ管理については言及がない。
「顧客から一歩引いた」設計——それでも問われる責任
今回のツールは、エンドユーザー(投資家)に直接提供するのではなく、金融アドバイザーという専門家に対して販売するプロ向け製品という位置づけだ。これはAnthropicが以前リリースした金融サービス向けエージェントに続く動きで、OpenAIが銀行・株式調査向けに自社製品を投入した翌週というタイミングでもある(関連記事:OpenAIの金融向け製品展開)。
比較対象として挙げられているのが、欧州のネオブローカーScalable Capitalだ。同社は2025年8月、600億ユーロ(約9兆円)相当の顧客資産をChatGPTとClaudeに接続し、顧客が直接ポートフォリオ分析や取引を行えるようにした(関連記事)。これは規制を受けたブローカーが自社の顧客をAIアシスタントに直接さらすというモデルだ。
Anthropicの今回の製品はアドバイザーの業務支援ツールであり、クライアントから「一歩引いた」位置にある。しかし記事が指摘するように、欧州の監督当局が問うのは「アドバイザーがそのAI出力をどう使うか」という点だ。ツールが一歩引いていても、それを使ったアドバイザーの行動が規制の対象になる構造は変わらない。
なぜ今、金融アドバイザー向けなのか
背景にあるのは人材不足だ。Pelosiは「アドバイザーコミュニティは縮小している。彼らは引退しており、数も多くない」と述べた。BlackRockは現在、アドバイザーが「既製品として購入する」モデルポートフォリオを約3,000億ドル(約45兆円)規模で管理しており、同社のウェルスアドバイザリー責任者Jaime Magyeraは「アドバイザーが求めているのは情報よりもキャパシティのアウトソーシングだ」と語る。
AIによる業務効率化のニーズは明確だが、規制対応の実装コストと責任の所在が引き続き業界の焦点になる。
詳細はAnthropic has built a Claude tool for financial advisersを参照していただきたい。