9月14日、The Next Webが「OpenAI quits Caltech AI maths event after mathematicians revolt」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIがフィールズ賞受賞者らを含む数学者コミュニティの反発を受け、Caltechで開催予定のAI数学イベント「Mathathon」へのスポンサーを撤退した経緯について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
数学者が「研究不正行為」と断じた
発端は9月8日、カリフォルニア工科大学(Caltech)の現・元研究者たちが公開書簡を起草し、10日に公開したことだ。署名数は公開時点で771名。博士課程以上の数学研究者のみが署名できる条件のもと、700名超の研究者・学生が名を連ねた。
書簡の核心は「スロップ数学(slop mathematics)」という言葉だ。「速く生産され、検証は他者に丸投げされる数学」を指す。AIが出した結果を確認・修正・普及させる作業は、実際には研究数学者が担っているにもかかわらず、その労働は「無報酬・無クレジット・無承認」だと書簡は告発する。結論として、AI企業は研究不正行為を行っていると断じた。
書簡中の一文が経済的な不条理を端的に示している。「合理的な数学研究の未来モデルにおいて、すべての研究数学者が1つの結果を証明するために2万ドル分のAIクレジットを与えられることはない」。
OpenAIは翌日に撤退、Anthropicは残った
9月10日、OpenAIは100万ドル分のクレジット提供を撤回した。同社の研究リード、Dan Robertsは「AIの数学における急速な進歩が破壊的であることを認識している」とXに投稿し、数学コミュニティとの対話を続けたいと述べた。
一方、同じく100万ドルを拠出していたAnthropicは撤退しなかった。Business Insiderの取材にも即答しなかったという。
Anthropicはこのタイミングでむしろ数学者に接近する姿勢を見せている。TNWが9月6日に報じたように、Claudeを使ってフェルマーの最終定理をLean(定理証明支援システム)で11日間で形式化することに成功しており、形式化研究への無料アクセスやクレジット提供も拡充している。
翌日、フィールズ賞受賞者25人が別の声明を出した
9月11日、25名のフィールズ賞受賞者が「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」と題した声明を公開した。署名者にはTerence Tao、Peter Scholze、Maryna Viazovska、Cédric Villani、Pierre Deligne、Manjul Bhargava、Martin Hairerらが名を連ねる。
フィールズ賞は4年に1度、40歳以下の数学者に授与される数学界最高の賞だ。その受賞者25名が一堂に声を上げるのは異例の事態である。
彼らの主張は、Caltechの書簡よりも抽象的で、照準はより高いところに向いている。「問題を解くことは、あくまで手段であり代理指標にすぎない。本来の目標は概念的な理解と洞察だ」と声明は述べる。真偽入り混じった命題の大量生産が加速することで「肥沃な土壌を破壊しかねない」と警告する。
この声明はMathathonに言及せず、中止も求めない。あくまでベンチマーク競争そのものへの異議申し立てだ。
問題の引き金:Navier-Stokes問題をめぐる混乱
この一連の騒動の直接的な引き金は、その前週だった。OpenAIは9月8日、エージェントの群れがNavier-Stokes問題(流体力学の未解決問題で、Clay数学研究所のミレニアム懸賞問題のひとつ)の解を導き出したと発表し、翌日に証明を公開した。
NYU(ニューヨーク大学)のTristan Buckmasterは同じルートで研究を進めていたが、OpenAIが共著者にAnthropicのLevent Alpögeを含まない条件を提示してきたと主張した。OpenAIのSébastien Bubeckはこれを否定し謝罪している。Buckmasterはその後ABCの取材に対し「先を争って発表する意味はもはやない。ゲームは終わった」と述べた。
イベントの主催者は学部生
皮肉なのは、このイベントの名前が挙がった5人の主催者全員が学生であることだ。イベントを立ち上げたのはCaltechの19歳の2年生、Caiman Moreno-Earle。彼はAnthropicに電話1本で100万ドルを要求し、5万ドル程度の提示を想定していたところ、実際に100万ドルを引き出した。
主催者たちは書簡への反論を同日付で公開し、懸念の一部を認めながらも開催は維持した。arXivへのプレプリント提出要件の追加、教育トラックの拡充、「AIが予想を人間より速く解けるなら数学者の役割とは何か」というウェブサイト上の一文の削除といった修正を行った。
主催者全員は、数学者がAI企業に著作権なしでの研究利用停止を求めた6月のLeiden宣言にも署名している。Moreno-Earleは「ルールが固まるまで待つ余裕は私たちにはない」と述べた。
未解決の問題
現時点で3つの問いが宙に浮いている。Mathathonが代替スポンサーを見つけられるか。OpenAIの撤退がこのイベントに限った判断か、数学研究全体への向き合い方の変化を意味するのか。そして、Clay数学研究所が依然としてNavier-Stokesを未解決として扱っているなか、OpenAIの証明が最終的に受け入れられるかどうかだ。
詳細はOpenAI quits Caltech AI maths event after mathematicians revoltを参照していただきたい。