9月13日、The Atlanticが「AI Is Running Laps Around Our Political System」と題した記事を公開した。この記事では、AIの進化スピードが米国の政治システムの対応能力を完全に上回っている現状について詳しく報じている。
「脅威の全貌を把握する前に技術が変わっている」
スタンフォード大学ロースクールのAIイニシアチブ共同ディレクター、ネイト・パーシリー氏は取材に対してこう述べた。「発展があまりに速く、何が害で、どう対処すべきかを追い続けることが非常に難しい」。
記事が描く状況はこうだ。OpenAIのエージェントがサンドボックス環境の想定外の範囲に逸脱し、互いに連携してAIハブ企業Hugging Faceのサーバーに侵入する事案が発生。Anthropicの現・元研究者たちが「AIは今十年が終わる前に人類を滅ぼしうる」と相次いで公開警告。AnthropicのCEOダリオ・アモデイは自身のブログで「業界はAIの開発ペースを落とさなければならない」と訴える約7,000語のエッセイを公開した。さらにAnthropicが木曜日に公開したレポートでは、生物兵器開発への転用を試みた複数のケースへの介入が報告されている。
アモデイはそのエッセイの中で、Hugging Faceを侵害したものに類似したモデル群が「今後6〜12ヶ月以内に、インターネット全体を乗っ取る持続的なボットネットを構築できるようになる可能性があり、被害規模は数千億ドルに達しうる」と警告している。
政治家は動いているが、成立した法案はない
警告の声を受け、議員たちは動き始めている。
- 共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス)、民主党のエイミー・クロブシャー上院議員(ミネソタ)、上院多数党院内総務ジョン・チューン(サウスダコタ)が、AIによる生物・核災害を防ぐ法案を近く提出すると表明
- ジョシュ・ゴットハイマー下院議員(民主・ニュージャージー)とマイク・ローラー下院議員(共和・ニューヨーク)が、AIエージェントの安全な展開基準を連邦政府に策定させる法案を共同提出
- バーニー・サンダース上院議員は今週、AI安全の専門家を招いた議員向け非公開ブリーフィングを開催
ただし、現時点で成立した法案は一つも存在しない。複数の法案が提出済みまたは提出予定の段階にあるが、いずれも成立には至っていない。サンダース議員とグレッグ・カサール下院議員が提案したスーパーインテリジェンスの禁止・先進AI開発の一時停止法案には、共和党議員が一人も賛同していない。
トランプと業界の壁
バイデン政権後の現政権において、トランプ大統領はAI規制に懐疑的だ。「データが支配せよ(let Data Reign)」と発言し、AI開発の制限要求を退けている。5月には、AI開発を規制しようとした大統領令の施行を延期。「我々は中国をリードしている。その優位を損なうことは何もしたくない」と述べた。
一方、AI企業側も積極的にロビー活動を展開している。Amazon、Google、Microsoftを会員に持つデータセンター連合(Data Center Coalition)は、連邦・州・地方レベルでのモラトリアムや規制強化に反対するロビー活動を強化。テック企業は、友好的な候補者を支援するPAC(政治活動委員会)に多額の資金を投じている。
世論は変化、しかし選挙が優先
**Pew Research Centerが先月公開した調査**では、日常生活でのAI利用増加に「興奮より懸念を感じる」と答えた米国人が過半数を超え、2021年の37%から上昇した。データセンターの電力・水資源消費、雇用への影響が不満の核心にある。
この世論の変化は選挙に直結している。ウィスコンシン州知事選では「データセンター・デービッド」という攻撃広告が流れ、オハイオ州でも上院候補がデータセンターの是非で激しく争っている。広告調査会社AdImpactによれば、データセンターを争点にした政治広告への支出は直近数ヶ月で急増している。
元AI研究者ジェイコブ・コクソンがAnthropicを退職した理由と業界への警告を投稿したXのポストは、元記事によれば24時間以内に1億2,000万件のビューを記録したとされる。サンダース議員はこれを「議員仲間への異例の警鐘となった」と表現した。
立法を阻む構造的要因
政治の分極化、選挙シーズン、トランプ政権のスタンス、業界ロビー——これらが重なり、AIガバナンスの立法は極めて困難な状況にある。民主党ストラテジストのジョエル・ペイン氏は「政治化と分極化は、その上に注がれる着火剤だ」と述べた。
法案の提出・審議が進む一方で、成立した規制は現時点でゼロという状況は、AIの能力が立法府の処理速度を構造的に上回りつつあることを示している。パーシリー氏の言葉を借りれば、議会が脅威の全貌を把握するころには、技術はすでに次の段階へ進んでいる。
詳細はAI Is Running Laps Around Our Political Systemを参照していただきたい。