9月13日、The Decoderが「Two-year university study finds banning AI from classrooms leaves students worse off」と題した記事を公開した。この記事では、大学の2年間にわたる実証研究でAIを禁止したグループが最低の成績に終わったという知見について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
3グループに分けた実験の設計
研究者のThibault Schrepelは、大学の法学系授業でAI活用の効果を比較するため、学生を3グループに分けた。
- グループ1:ChatGPT使用禁止
- グループ2:AIが生成した修正提案をテキスト内に埋め込む形で提供。継続使用は可能だが、使い方の指導なし
- グループ3:法的なプロンプトエンジニアリングや、AIの提案を整合性・正確性の観点から検証する方法を事前にトレーニング
課題はEU AI法の条文の一部を修正するという法律実務に近い内容で、全員が同じ試験(多肢選択式と持ち帰り試験)を受けた。実験は2024年に66人、2025年に164人を対象に実施された。
禁止グループは「アイデア枯渇」に陥った
AIなしのグループは、語句の言い換えや重複削除といった表面的な修正にとどまった。10〜15分が経過すると、多くのサブグループが議論のネタ切れを起こした。Schrepelはこれを「アイデア枯渇(idea exhaustion)」と呼んでいる。なお、グループ内で深く議論するという副次的な効果はあったとされる。
指導なしでAIを使ったグループ2は、AIの提案を「それっぽいから」という理由でほぼ無批判に採用した。「shall」や「individual」といった法律用語を、法的含意を理解しないまま別の言葉に置き換えるケースも確認され、全サブグループが少なくとも1つの誤解を招く表現をChatGPTの出力からそのまま残していた。
一方、トレーニングを受けたグループ3だけが、言い回しを変えながらAIと実質的なやり取りを行い、課題の本質的な問いに踏み込んでいた。
2年目には差が縮まった
2024年はグループ3が他の2グループを大きく上回り、特に持ち帰り試験での差が顕著だった。しかし2025年には3グループの成績がほぼ同水準に収束した。
Schrepelは、これを学生のChatGPT習熟度の向上によるものと解釈している。日常的にAIを使い慣れている学生が増えたことで、フォーマルなトレーニングの上乗せ効果が1年目より小さくなったとしている。倫理的利用や法的責任についての教育は依然として必要だとも付け加えている。
2年間を通じて変わらなかった事実がある。禁止グループは常に最下位だった。
研究者自身の仮説が崩れた
最も興味深いのは、研究者自身が自分の前提を覆された点だ。Schrepelは当初、グループ2(指導なし使用)が演習で犯した非批判的な誤りが試験にも持ち越されると予想していた。だが結果は逆で、グループ2はグループ1(禁止)をわずかに上回った。
精度が問われる場面では、学生が自力でAIの弱点を見抜くようになるのだと彼は推論している。そして「私は間違っていた」と明言した上で、AI教育を省くのは機会の喪失ではあるが、予想されていたような学力崩壊は起きないと結論づけている。
大学は禁止方針を見直すべきか
Schrepelは一律禁止に反対し、教員が試行錯誤できる環境の整備と、AIスキルへの教員投資を大学に求めている。また、修士論文のあり方についても、AIで数分でこなせるような純粋な文献レビューは今後評価対象から外し、AIの活用そのものを評価基準に含めた実践的・実証的な研究に移行すべきだと主張している。
この立場に真っ向から対立するのがUCバークレー・ロースクールで、同校はほぼすべての採点対象課題でAIを禁止している。将来の法律家は、AIを有効活用できるようになる前に、まず思考の基礎体力を身につける必要があるという考え方だ。
他の研究との整合性
今回の研究にはサンプル規模の小ささや、対象者がAIコース受講生という偏りなど、限界も正直に認められている。
関連する大規模研究を見ると、方向性は一致しつつも複雑な側面もある。UCバークレーの研究(50万件以上の成績データ)では、ChatGPT登場後に文章・プログラミング系科目のA評価が13ポイント上昇したが、監督付き試験では変化がなかった。中国の2万6000人規模の縦断研究では、AIが宿題の成績を押し上げる一方で試験成績が**最大24%**低下するという結果が出ており、AIが独立した思考を補助するのではなく代替した場合に被害が大きいことが示されている。
AI禁止が「安全策」という直感は、少なくともこの研究においては支持されなかった。
詳細はTwo-year university study finds banning AI from classrooms leaves students worse offを参照していただきたい。