9月13日、Molly Taftが「AI Agents Are Thirsty for Power」と題した記事を公開した。AIエージェントの急拡大がデータセンター建設ラッシュとエネルギー消費問題をどう牽引しているかを詳報した内容で、具体的な電力試算や業界動向を交えながら問題の構造を解説している。
チャットボットからエージェントへ——消費電力が桁違いに変わる
「なぜこんなにもデータセンターを建てているんだ?」と友人に問われた、というのが記事の出発点だ。
シンプルなチャットボットへの問い合わせは、AIの使われ方としてすでに時代遅れになりつつある。今、業界の中心にあるのはAIエージェントだ。明確な定義はないが、大規模言語モデル(LLM)をベースに、ユーザーのタスクを自律的に判断・実行するシステムを指す。
記事中でWiredのMaxwell Zeffは次のように説明している。
「AIチャットボットに単純な質問をするのとは異なり、エージェントはユーザーの元の質問をもとに、自分自身に数百の小さなプロンプトを与えることができる。たとえばウェブサイトの構築を依頼された場合、エージェントは何時間もかけて各種ページやメニュー、データセットを構築しながら、何十回も自己プロンプトを繰り返す。」
単発の応答で完結するチャットと異なり、エージェントはタスクが複雑になるほど処理が増え続ける。これが消費電力を大きく押し上げる根本的な理由だ。
1万体のエージェントが数学の難問を解いた——そのコストは?
規模感を示す具体例として、OpenAIが最近発表した事例がある。1万体以上のエージェントが270万件のメッセージをやり取りし、長年未解決だった数学の問題を解いたというものだ(数学者コミュニティからはその主張に異論も出ている)。
このプロセスで消費した電力は膨大で、Zeffによれば数千万ドル相当のエネルギーを消費した可能性があるという。正確な数字の把握は難しいが、これは単純なクエリのコストとは桁が異なる。
「ユーザー数」というリミッターが外れる
従来のITサービスとAIエージェントの決定的な違いを、Sustainable AIの共同創業者でCEOのBoris Gamazaychikovはこう指摘する。Sustainable AIはAIシステムの環境・社会的影響を研究・提言する独立研究機関で、テック業界における持続可能なAI利用の標準化を推進している。
「車の運転者数やNetflixの視聴者数という形で、他の技術的成長領域には制約があった。しかし今や、この消費はユーザー数から切り離されつつある。AI企業のリーダーたちが語る『従業員1人のユニコーン企業』という未来がそれを示している。」
その「1人」とは人間の話であり、裏では数百から数千のAIエージェントが稼働している——という世界観だ。ユーザー数がボトルネックにならないこの構造が、データセンター建設を加速させているとGamazaychikovは見る。
個人の日常的なAI利用でも、冷蔵庫2台分のエネルギーを消費
企業側が環境データの開示に消極的な中、気候科学者のZeke Hausfatherが自身のAI利用を自力で計算したブログ記事を先月公開した。エージェントを多用する彼の1日のClaude利用が、冷蔵庫2台分以上のエネルギーを消費している可能性があるという試算だ。
Gamazaychikovはこの試算の方向性は評価しつつも、参照データがやや古いと指摘している。これは公正な批評で、AI企業が排出量指標の開示に不透明なこともあり、この分野の学術研究はまだ薄い。
Hausfatherは「個人レベルでは世界が終わるような数字ではない」としながらも、「世界の気温が急上昇し、排出削減目標が未達のまま推移する中で、これは純増の排出源だ」と警告している。
一方でOpenAIのSam Altmanは最近のポッドキャストで、「アーモンド1粒の栽培に必要な水の量は、ChatGPTへの3万8000回のクエリに相当する」と発言したが、この計算は複数の専門家から異論が出ている。
MetaのパーソナルAIエージェントは「全ユーザー向け」に展開中
先週、Metaはユーザー向けのパーソナルAIエージェントを発表した。元記事では「全世界で数十億人のために働くように設計された」とプレスリリースで謳い、ユーザーがオフラインの間も稼働する「クラウド上の専用コンピュータ」を各ユーザーに割り当てるという。年内にはAIグラスとの統合も予定されている。
MetaがAIグラスを使うすべてのユーザーに常時エージェントを提供しようとしているなら、ルイジアナ州の「Hyperionプロジェクト」(10基の天然ガス発電所で供給される予定)のような巨大データセンターが必要になる理由も納得できる。
小型原子炉(SMR)はデータセンターの救世主になるか——現実は厳しい
読者からの質問への回答として、小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)についても触れられている。カーボンフリー電力としての相性は理論上良好だが、現実は楽観視できない。
米国内ではまだ商用稼働中のSMRは存在せず、販売ライセンスを取得したモデルは1機種のみだ。Trump政権はエネルギー省のパイロットプロジェクトで11社のスタートアップの育成を進めており、一部は節目となるマイルストーンを達成しているものの、本格的な商用展開までには依然として数年単位の時間がかかる見通しだ。
こうした状況の中で「何年も待てない」データセンター開発者たちは、今すぐガスタービンを据え付けている。長期的なカーボンフリーの理想よりも、目先の電力確保を優先している格好だ。SMRが実際にデータセンター需要を支える主力電源になるまでの空白期間を、化石燃料が埋めるという構図は当面続く可能性が高い。
3〜5年後の技術は「チャットボットとは全く異なる形」になる
記事全体を通じて浮かび上がるのは、現在のデータセンター建設ラッシュが単なる需要増への対応ではなく、まだ存在しない未来の技術を見越した先行投資であるという点だ。
Gamazaychikovはこう締めくくっている。「今提案・建設されているデータセンターが訓練する技術は、3〜5年後のものだ。それは単なるチャットボットの窓とは全く異なる形になる。」エージェントの普及によってユーザー数という従来の成長制約が消滅しつつある今、電力・水・土地をめぐる議論はAI業界の中心課題になりつつある。
詳細はAI Agents Are Thirsty for Powerを参照していただきたい。