9月14日、The Next Webが「Z.ai raises $5bn in Hong Kong including $3bn of zero-interest bonds」と題した記事を公開した。NSA・FBI・CISAの3機関が中国AIスタートアップZ.aiを「米国製AIモデルから大規模に能力を盗取した」と名指し勧告した、そのわずか3日後——香港の投資家たちは同社に50億ドルを投じた。ワシントンがルールを書き、香港が小切手を書く。この一連の流れが、現在の米中AI競争の構造的な矛盾を鮮明に映し出している。
資金調達の3日前に米政府3機関から名指し
今回の新株発行価格決定の2日前、NSA・FBI・CISAの3機関は、Z.aiを含む中国企業6社を「米国製AIモデルから大規模に能力を抽出(ディスティレーション)した」として名指しする共同勧告を発表した。
勧告によると、Z.aiは2026年半ばまでにGPT-5.5およびClaude Opusから数十億トークン分のデータを抽出したとされる。「ディスティレーション」とは、大規模モデルの出力を大量収集して小規模モデルを強化する手法で、米国の輸出規制が直接カバーしていない手口として問題視されている。
北京はこの勧告を「根拠がない」として否定した。その3日後、香港の投資家たちは50億ドルをZ.aiに投じた。
50億ドルの内訳——株式と「無利子」債券
Z.aiは清華大学系の研究グループを母体とするAIスタートアップで、香港市場では「智譜(Zhipu)」として上場している。中国本土ではなく香港市場を選んだ背景には、国際資本へのアクセスのしやすさと、本土規制との距離感がある。香港は中国の法域に属しながらも独自の金融市場を持ち、海外機関投資家が参加しやすい環境を維持している。
今回の資金調達の内訳は以下のとおりだ:
- 約20億ドル:2,197万株の新株発行。発行価格はHK$714で、前日終値より約10%低い水準
- 約30億ドル:2027年9月満期のRMB建て転換社債(元本約201億4,000万人民元)、クーポン(利息)はゼロ
転換社債とは、一定条件で株式に転換できる権利が付いた債券のことだ。今回の転換社債のイールドはマイナス0.5%〜ゼロの間で設定されており、この社債を買った投資家は元本を満額回収できないことが確定している。それでもこの条件が成立したのは、債券に付随する「転換オプション」が目当てだからだ。
転換価格はHK$892.5——新株発行価格の25%プレミアム水準に設定されている。
構造を整理すると、この「債券」は実質的にローンではなく、Z.aiの株式を取得するためのチケットだ。マイナス利回りで資金を貸す行為は、株式の上昇益が十分大きいと見込む場合にのみ成立する。今回の引き合いの規模は、そう見込む投資家が相当数いたことを示している。
調達資金の用途——「コンピュートに制約がある」という現実
Z.aiは調達資金の用途として、研究・計算資源・インフラ整備・事業拡大・戦略的投資・M&A・運転資金を挙げている。ほぼあらゆる合法的な企業活動をカバーする列挙だが、コンピューティングリソースの行に限っては、より厳しい制約が背景に存在する。
Z.aiはすでにNvidiaのチップを一切使わないデータセンターを構築済みで、中国製アクセラレーター(AI演算向け半導体)で運用している。この方針でスケールアップしていくコストは、市場シェア首位のNvidia製品を購入する場合と比べて非常に高くつく。今回の50億ドルのうちコンピュートに何ドルを振り向けるか、何を調達するかについて、同社はまだ明らかにしていない。
上場からわずか数ヶ月で株価2,000%超、なぜこれほど注目されるのか
Z.aiは1月に香港上場し、6月時点で株価は約2,000%上昇していた。アナリストは当時、同社が今後約3年間は赤字を続け、継続的な資金調達が必要になると指摘していた。
それでも投資家が殺到する背景には、同社の収益成長がある。主力モデルを無償提供しながらも、年間売上は10億ドルに迫る水準まで拡大している。今年初めにDeepSeekを性能で上回ったとされるGLMシリーズはオープンウェイト(重みを公開)で提供されており、無料戦略と株価上昇は今のところ矛盾なく共存している。
輸出規制は半導体をカバーするが、資本はカバーしない
この一連の流れが示す構図は明快だ。ワシントンはハードウェアのルールを書き、香港が小切手を書く。 輸出規制は中国の半導体アクセスを制限するために設計されたが、資本の流れは対象外のままだ。
同様の動きとして、Moonshot(中国のAIスタートアップ)も50億ドル規模の資金調達を検討中と報じられている。規制と資本の非対称性は、Z.ai一社の問題ではなく、中国AIセクター全体に共通する構造的な現象になりつつある。
詳細はZ.ai raises $5bn in Hong Kong including $3bn of zero-interest bondsを参照していただきたい。