9月13日、Anton Shilovが「Chinese military researchers and tech giants caught using Claude」と題した記事を公開した。この記事では、中国の軍研究者や大手テック企業がAnthropicのClaudeを軍事・監視・モデル蒸留目的で不正利用していたことが、Anthropicの2026年9月脅威レポートによって明らかになったことについて詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
台湾の防空システムを標的にした16本のソフトウェアモジュール
最も具体的な軍事利用として報告されているのが、中国の防衛・軍事産業研究者によるClaudeの使用だ。この人物はClaudeを使って、電子戦および敵防空制圧(SEAD: Suppression of Enemy Air Defenses)向けのソフトウェアモジュールを約16本開発した。
このソフトウェアはレーダー、地対空ミサイル(SAM)サイト、指揮所、通信ノードを分析し、攻撃優先順位を算出する機能を持つ。問題なのはデフォルトのシナリオ設定だ。台湾内の12目標が初期値として設定されており、その中にはPatriotミサイルシステム、天弓(Tien Kung)防空システム、空軍基地、早期警戒レーダー、指揮バンカーが含まれていた。
Anthropicはアカウントのメタデータと検出されたコンテンツから、この人物が中国人民解放軍軍事科学院(PLA AMS)を含むPRC研究機関と関係していたと判断している。ただし、PLAが直接Claudeを使用したと断言はしていない。
もう一件の軍事利用では、米国の防衛OEMを装った中国系アクターが、対魚雷火器管制システムの仕様書をClaudeで起草した。公開情報をもとに米海軍の対魚雷・対潜システムと比較検証し、200ページを超える技術提案書を作成。Anthropicはこのアクターが人民解放軍海軍向けのシステムを開発しようとする中国防衛メーカーと関係していると見ている。
なぜ中国製モデルではなくClaudeなのか
中国が独自の高性能AIを持ちながら、なぜAnthropicのClaudeを使ったのかという疑問は自然だ。Anthropicが検出した中国語のプロンプトや中国IPアドレスを踏まえると、「国産モデルとの接触を隠すための隠れ蓑」という説明は成り立たない。
Anton Shilovは記事中で、Claudeがコーディング・推論・エージェント的タスクで単純に優れていたか、あるいは特定のワークフローで使いやすかった可能性を指摘する。さらに、米国のフロンティアモデルは膨大な英語圏の資料で学習されており、米軍の技術・システムに関する公開情報を豊富に保有している点も、用途に合致した理由として挙げられている。
ウイグル人監視への利用
軍事目的以外では、中国政府と関連するアクターが、シリア国外のウイグル武装組織への潜入と、ウイグル人ディアスポラ(海外在住者)の監視にClaudeを活用したことも報告されている。
アラビア語話者の「専門家」コンサルタントを装い、100以上のWhatsAppグループと数十のTelegramチャンネルから収集した情報をClaudeで処理。複数プラットフォームにまたがる個人の特定、ソーシャルネットワークのマッピング、そして財政問題・家族離散・シリア新政権への思想的幻滅などを抱える「脆弱な人物」のリクルート候補選定を行った。
さらに新疆に家族が残る個人を標的にし、現地方言での欺瞞的接触メッセージの作成、会話のリアルタイム翻訳、リクルートメッセージの信頼性評価にもClaudeが使われた。ウイグル系メディア「Uyghur Post」に対しては、組織的な大量通報とボットによる拡散工作も実施されている。
最大の皮肉:Alibabaによる1億5100万件の「蒸留」
Anthropicのレポートで特筆すべきもう一点が、モデル蒸留(distillation)による知識の盗用だ。蒸留とは、フロンティアモデルの出力を大量収集し、自社モデルの学習データとして利用する手法を指す。モデルの重みを直接入手せずとも、推論能力や知識を安価に再現できる。
Anthropicによれば、Alibabaのオペレーターは2026年5月から7月の間に1億5100万件以上のClaudeとのやり取りを生成し、ピーク時には1日あたり300万リクエストに達した。数千の不正アカウントを通じて収集したこの連鎖的思考(chain-of-thought)データが、推論・コーディング・エージェント的ソフトウェアエンジニアリング・カーネル開発・長期タスクに特化したQwen 3.xの学習に使われたとAnthropicは主張している。
同様の手口はAlibaba単独ではない。AnthropicはDeepSeek、Xiaomi、Zhipu/Z.aiなどの関与も指摘している。DeepSeekは14日間で1210万件以上、Xiaomiは40万件以上のやり取りを生成したとされる。手法はプロキシネットワークや不正アカウント、自社顧客のリクエストをClaudeに横流しすること、さらには収集済みのClaudeの会話を第三者から購入することまで多岐にわたる。
詳細はChinese military researchers and tech giants caught using Claudeを参照していただきたい。