9月12日、Wiredが「Meta Sued Over Training Data for Its AI and Face-Recognition Systems」と題した記事を公開した。MetaがFacebookおよびInstagramの写真をAI学習・顔認証システムの構築に無断で利用したとして集団訴訟を提起されたという内容で、焦点となるのは「消費者向けには存在しない」とMetaが説明してきた顔認識機能「NameTag」だ。同社CTOが別の場で「素晴らしいフィーチャーになると思う」と語っていたことも明らかになっており、その矛盾が訴訟の核心をなしている。
「NameTag」と生成AI、両面での訴訟
イリノイ州およびカリフォルニア州に住む親子らが、シカゴの連邦裁判所にMetaを相手取った集団訴訟を提起した。訴状は主に2点を問題視している。
- 顔認証システム「NameTag」:Metaのスマートグラス向けに開発中の未公開機能。ユーザーの顔を生体認証データ(バイオメトリクス)として変換し、端末内のデータベース上の「フェイスプリント」と照合する仕組みとされる。
- 生成AIモデル「EmuおよびMuse Image」:MetaがFacebook・Instagram上の大量の画像を学習データとして使用したと公言しているモデル群。Meta自身がこれらのモデルの学習にユーザー投稿画像を用いたことを認めており、訴状はその収集プロセスにおいて本人の通知・同意が得られていなかった点を問題視する。
訴状はいずれも、イリノイ州の生体情報プライバシー法(BIPA: Biometric Information Privacy Act)およびカリフォルニア州のプライバシー法に基づき、本人の通知・同意なしに生体情報を収集したことが違法であると主張している。BIPAは2008年に制定されたイリノイ州固有の法律で、指紋・網膜・顔認識データなどの生体情報の収集・利用に対して企業側の明示的な同意取得と保管ポリシーの開示を義務付けており、米国で最も厳格なプライバシー規制の一つとして知られる。違反した場合の法定損害賠償額が高額なため、集団訴訟において繰り返し援用されてきた実績がある。
NameTagの実態:「存在しない機能」の矛盾
NameTagをめぐっては、Wired自身が今年6月に先行報道を行っている。Metaのスマートグラス用AIコンパニオンアプリ(ダウンロード数5,000万回超)のコードに、NameTagの機能が密かに組み込まれていたことを確認した。機能はユーザーに対して有効化されていなかったものの、外部研究者の検証でも技術的に動作するシステムであることが確認されている。
Metaはこれを受け、翌6月5日にアプリからコードを削除した。同社は「消費者向けに提供していないので機能は存在しない」との立場を取り続けたが、Meta CTOのアンドリュー・ボズワース氏はその後のポッドキャストでNameTagについて自ら言及。「以前会ったことのある人を眼鏡が認識できる機能で、素晴らしいフィーチャーになると思う」と述べており、矛盾した説明が続いている。
訴状は、NameTagのフェイスプリントデータがFacebook・Instagramの写真から生成されている可能性を指摘する。根拠として、Meta社員が「NameTagはMetaのコネクションや公開Instagramアカウントを通じて人物を認識できる」と述べたとする報告や、プロフィール写真などの保有画像と顔を照合する同社の特許を挙げている。
EmuおよびMuse Imageモデルの学習データ問題
訴訟のもう一方の柱であるEmuおよびMuse Imageについても、訴状は詳細な主張を展開している。MetaはこれらのAI画像生成モデルの学習にFacebook・Instagramのユーザー投稿画像を大規模に使用したことを公に認めているが、訴状が問題視するのはその収集プロセスだ。
プラットフォームに写真を投稿したユーザーは、生体情報を含むデータがAIモデルの学習に利用されることについて通知を受けておらず、同意も与えていないと原告側は主張する。顔画像を学習データとして処理すること自体がBIPAの定義する「生体識別情報の収集」に該当する可能性があり、NameTagと同一の法的枠組みで違法性が問われている。NameTagが「顔の照合・特定」という出力側の問題を問うのに対し、EmuおよびMuse Imageをめぐる訴えは「学習データとしての無断収集」という入力側の問題を問う構造であり、2本立ての訴訟はそれぞれ異なる侵害経路を射程に収めている。
訴訟の規模と求める賠償
原告はフランシスコ・アルバレス親子(イリノイ州)、ジェレミー・ワール氏と10歳の娘(カリフォルニア州)。ただし提訴対象のクラスは広く、2021年9月4日以降にFacebook・InstagramへのアップロードやMetaの生成AIシステムへのプロンプト送信を行った全米のユーザーを含む。訴状はその規模が数百万人に上ると見積もっている。
BIPAに基づく請求では、
- 故意・無謀な違反1件につき5,000ドル(または実損害額のいずれか大きい方)
- 過失による違反1件につき1,000ドル(または実損害額のいずれか大きい方)
に加え、差止命令的救済を求めている。
Metaの過去の前例
Metaが生体情報をめぐる法的責任を問われるのは初めてではない。
- 2020年:以前の顔認識システムをめぐるイリノイ州の集団訴訟で6億5,000万ドルの和解。2021年11月にはシステムを廃止し、10億件超のフェイスプリントを削除した。
- 2024年:テキサス州との間で生体データの違法収集疑惑を解決するため14億ドルを支払うことで合意。
今回の訴状は、2004年にMark Zuckerberg CEOが自社データを信頼したユーザーを「dumb fucks(バカ野郎)」と呼んだとされるチャットにも言及しており、一連の問題がMetaの初期から続くパターンであると位置づけている。
Metaの公式コメント
Metaのスポークスパーソンは次のように述べた。
「この訴訟は根拠がなく、我々の取り組みを誤って伝えている。AIプロダクトの構築・改善に人々の情報をどう使うかについては透明性をもって対応してきた。NameTagについては消費者向けに何も提供しておらず、今後どうするかも決まっていない。もし何かをリリースする場合は、十分な透明性をもって慎重に進める。一つ明確にできることは、普遍的な顔データベースを構築していないということだ。」
一方、原告側弁護士のジャスティン・ボーリー氏は「ソーシャルメディアに写真を投稿したというだけで、生体情報が悪用されるかもしれないと不安に思わなければならない状況はあってはならない」と述べた。
詳細はMeta Sued Over Training Data for Its AI and Face-Recognition Systemsを参照していただきたい。