9月12日、About Chromebooksが「AI Job Displacement Statistics by Industry 2026」と題した記事を公開した。About Chromebooksは主にChromebook関連のガジェット・テクノロジー情報を扱うメディアだが、AI・自動化が職場環境やデバイス需要に直結するとの判断から、雇用統計の包括的レポートを定期的に取り上げている。今回の記事では、2026年における産業別・職種別・年齢層別のAIによる雇用代替の実態を、Challenger, Gray & Christmas(米国を代表するレイオフ追跡調査会社)や米労働統計局(BLS)、スタンフォード大学デジタルエコノミーラボなど複数の調査機関のデータを用いて紹介している。
2026年1月から8月にかけて、米国の雇用主が発表した人員削減は529,914件。そのうち116,175件(約22%)の削減理由にAIが明示されており、26カテゴリある削減理由のなかでAIが首位に立つ。市況・経済状況(105,335件)、事業閉鎖(91,373件)、リストラ(73,649件)を上回る数字だ。
AIが雇用削減の主因に——2026年の数字が示す現実
ただし、前年同期との比較では総削減数は41%減少している。2026年のAI起因の削減数が突出して見えるのは、他の理由による削減が大きく縮小した側面もある。
Challenger, Gray & Christmasは1990年代から人員削減を追跡し続けてきた調査会社であり、米国メディアや政府機関でも広く引用されるレイオフデータの主要な一次情報源だ。同社の月次レポートは雇用市場の先行指標として機能することが多く、今回のデータもその信頼性を踏まえて読む必要がある。
テクノロジー業界が断トツ——削減数は他の上位3業界の合計を超える
業界別では、テクノロジー業界が155,126件と圧倒的な首位で、2位の運輸(42,279件)、3位のヘルスケア(35,637件)、4位の消費財(28,574件)の合計を上回る。前年同期比では52%増だ。
| 業界 | 2026年1〜8月 | 2025年1〜8月 |
|---|---|---|
| テクノロジー | 155,126 | 102,239 |
| 運輸 | 42,279 | 11,381 |
| ヘルスケア/製品 | 35,637 | 36,437 |
| 消費財 | 28,574 | 35,641 |
| 金融 | 22,912 | 44,986 |
| 食品 | 22,367 | 12,761 |
| 倉庫 | 18,589 | 41,556 |
| 小売 | 13,369 | 83,656 |
(出典:Challenger, Gray & Christmas)
運輸(前年比+271%)、食品(+75%)も増加しており、ソフトウェア・事務・バックオフィス業務が集中する業界での削減が顕著だ。元記事ではフィンテックについても+305%という数字が言及されているが、上記の業界別集計表には独立した行として記載がなく、金融カテゴリの内訳として扱われているため、単独での検証は元記事を直接参照されたい。一方、小売は84%減、政府機関は92%減となっている。
22〜25歳の若年層に19%の雇用格差
最も具体的なデータのひとつが、スタンフォード大学デジタルエコノミーラボが2026年8月に公表した研究(ADPの給与データを使用)だ。
AI代替リスクが高い職種に就く22〜25歳の雇用は、リスクの低い職種の同年代と比較して19%低い水準にある(2026年6月時点)。2022年11月から2026年6月にかけて、AI露出度の高い上位2分位の若年層雇用は約11%減少した一方、下位3分位は約10%増加した。
注目すべき点は、この格差が「解雇の増加」ではなく「採用の減少」によって生じていることだ。また、AIが業務を自動化している職種では雇用が減少する一方、AIが業務を補完している職種では雇用は横ばいか増加傾向にある。なお、同研究は因果関係の推定ではなく記述的パターンとして位置づけている。経験豊富な労働者には同等の格差は見られない。
求人票にも先行指標が出ていた——テキサス州の実証研究
ダラス連銀のエコノミスト2名(Samuel DodiniとTucker Smith)が2026年9月1日に発表した研究では、求人票データを用いてAI自動化の影響を分析した。
AI自動化リスクが高いポジションの求人は、リスクの低いポジションと比較して2023年末までに5%、2025年第1四半期までに約8%減少した。テキサス州全体に換算すると、生成AIの自動化露出が2024年の求人総数を1.8%、2025年を2.6%押し下げたと推計されている。
また、テキサス州ビジネス見通し調査(2026年5月)では、企業の3分の2がAIを業務利用していると回答しており、2年前の40%から大きく増加した。
BLS長期予測:2035年に最も打撃を受ける職種
米労働統計局(BLS)が2026年8月27日に公表した2025〜2035年の雇用見通しでは、全体の雇用は170.3百万人から176.2百万人へ3.5%増加する見通しだ。
しかし職種によって明暗が分かれる。
| 主要職種グループ | 2025〜2035年予測変化 |
|---|---|
| ヘルスケアサポート | +13.3% |
| ヘルスケア専門職 | +8.0% |
| コンピュータ・数学 | +7.3% |
| 全職種平均 | +3.5% |
| 製造・生産 | -0.4% |
| 販売関連 | -1.4% |
| 事務・管理サポート | -4.0% |
(出典:BLS, Employment Projections 2025-2035)
事務・管理サポート職は752,100件の削減が見込まれ、全職種グループで最大の減少数となる。BLSはこれをAIを含む自動化ツールのワークフロー統合と結びつけている。詳細職種では、ナースプラクティショナーが+41.0%、データサイエンティストが+34.6%と高い成長が予測されている。
企業の「予測」と「実績」のギャップ
McKinseyが2026年5月〜6月に97カ国1,719名から収集した調査では、**AIの活用によって自社の従業員数が減少したと回答した企業は14%**だった。ところが2025年の調査では、「今後1年で削減が起きる」と予測していた企業は32%に上っていた。
予測が実績の2倍以上という乖離は大きい。今後の見通しについては、39%が「AI導入で人員削減が起きる」と予想し、43%が「ほぼ変化なし」と回答している。
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」(22業界・55カ国の1,000社以上が回答)では、2030年までに1億7,000万の新規雇用が創出される一方、9,200万の雇用が代替されると予測。差し引きで7,800万の純増としているが、これは正規雇用12億件の22%に相当する変動規模だ。
まとめ
AIを削減理由に明示した116,175件は確かに大きな数字だが、それは全削減数529,914件の22%であり、かつ全体の削減数自体が前年比41%減という文脈で見る必要がある。実態としては、AIの影響は若年層・事務系・バックオフィス業務に集中しており、採用の抑制という形で静かに進んでいる。
※編集部の考察:日本においても、経済産業省のDXレポートや厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」でAI代替リスクの職種分類が整備されつつある。今回の米国データで示された「採用抑制」という静かな変化は、日本の新卒・若年層採用市場にも同様のパターンが現れる可能性として注視する価値がある。
詳細はAI Job Displacement Statistics by Industry 2026を参照していただきたい。