9月10日、Varietyが「Universal Music Group and ElevenLabs to Launch AI-Powered Music Platform in Expansive Licensing Deal」と題した記事を公開した。Universal Music Group(UMG)とAI音声スタートアップのElevenLabsが包括的なライセンス契約を締結し、UMGのカタログを基盤としたAI音楽プラットフォームを共同で立ち上げる——レーベルがAI企業を訴えながら別のAI企業とは組むという「二正面作戦」が、業界の標準的な振る舞いとして定着しつつあることを改めて示す動きだ。
単なるライセンス許諾ではなく「共同プラットフォーム開発」
音楽業界におけるAIライセンス契約は増加しているが、今回のUMG×ElevenLabsの取り組みが際立つのは、その契約の深度だ。
UMGがこれまでに結んできたAIスタートアップとの契約——リミックスツールのHookや、訴訟和解の末に合意したAI音楽生成サービスのUdio——は、既存サービスへのカタログ提供という形が中心だった。一方、ElevenLabsとの契約はまったく新しいプラットフォームを共同で構築する点で性格が異なる。
発表によれば、プラットフォームではファンがアーティストの楽曲をリミックス・マッシュアップしたり、「新たなトラックの解釈」や「パーソナライズされたボーカル体験」を生成したりできる。また、音楽プラットフォームに加えて、他のAI音声プロダクトも両社で開発していく方針だ。
タイミングが示す業界の地殻変動
この発表の前日には、競合のSunoがWarner Music Group、Believe、BMGの3社と提携したレーベル主導モデルを初公開している。主要レーベルとAI企業の提携が相次ぐ中、UMGとSony Music EntertainmentはSunoに対して著作権侵害を巡る訴訟を現在も継続中だ。
レーベルがAI企業を訴えながら、別のAI企業とは組む——この構図が、今の音楽業界とAIの関係を端的に示している。訴訟で既成事実を作りつつ、一方でライセンス契約によって収益化モデルを模索するという、二正面作戦が定着しつつある。
ElevenLabsの現在地
ElevenLabsは2022年創業。今年初めにシリーズDで5億ドルを調達し、評価額は110億ドルに達した。わずか5ヶ月前の評価額が66億ドル(従業員向けテンダーオファー時点)だったことを踏まえると、急速な評価額の上昇がわかる。
同社はMatthew McConaugheyやMichael Cainといった著名人の音声ライセンスや、HasbroのTransformers・Mr. Potato Headなどのキャラクター群のIPライセンスで知られる。音楽領域でも、Liza MinelliやArt Garfunkelら実在のシンガーとAIを組み合わせた楽曲集「The Eleven Album」の第1弾・第2弾(4月リリース)をすでに公開している。
アーティストへの還元をどう担保するか
UMGのCEO、Sir Lucian Graingeは声明で「責任あるAIはアーティストとファンの関係を深め、クリエイティブコミュニティに新たな収益機会をもたらす」と述べた。ElevenLabsのCEO、Mati Staniszewskiも「アーティストやソングライターが適切に報酬を得られる仕組みを実現する」と強調している。
ただし、具体的な収益配分の仕組みや報酬モデルの詳細は現時点で開示されていない。「ファンがアーティストの声や楽曲をパーソナライズして生成できる」プラットフォームがどのようなロイヤリティ設計になるかは、業界全体の注目点となるだろう。
この点は既存のストリーミング収益配分モデルとも密接に絡む問題だ。SpotifyやApple Musicにおけるロイヤリティ構造では、再生数に応じた分配が基本となっているが、ユーザーが生成したパーソナライズ音源に同じ枠組みを適用できるかどうかは自明でない。UdoやSunoとの和解・提携においても収益配分の透明性は課題として残っており、今回の共同プラットフォームがどのような先例を打ち立てるかは、業界全体のAIライセンスモデルの方向性を左右しうる。
詳細はUniversal Music Group and ElevenLabs to Launch AI-Powered Music Platform in Expansive Licensing Dealを参照していただきたい。