9月12日、The Next Webが「AI agents are learning to spend money. Who will handle the payments?」と題した記事を公開した。AIエージェントが自律的に決済を行う時代に向けて、Mastercard・Coinbase・XDCなどが決済インフラの覇権を争う構図について詳しく紹介されている。
問題の核心:決済システムは「人間が操作する」前提で作られている
AIエージェントがフライトを検索し、最安値を見つけることは今やできる。しかし「実際に購入する」となると話が変わる。現行の決済システムは、カード番号の入力・ログイン・承認クリックといった人間の操作を前提に設計されているからだ。
エージェントが自律的にタスクを完遂するには、都度人間に確認せずに支払いを完了できる仕組みが必要になる。
この変化のスケールは小さくない。Gartnerは2028年までにエンタープライズソフトウェアの33%にagentic AIが組み込まれると予測する(2024年時点では1%未満)。McKinseyは2030年までにAIエージェントが3〜5兆ドル規模の消費者商取引を仲介すると試算している(元記事はMcKinseyレポートを引用しているが、特定レポートの直接リンクは記載されていない)。
HTTP 402の復活:x402プロトコルとは何か
技術的に最も面白いのが、Coinbaseが開発したオープンプロトコル「**x402**」だ。
x402が復活させたのは「HTTP 402」——"Payment Required"を意味する古いWebのステータスコードで、長年仕様には存在しながら実用されてこなかった。x402はこれを機械間決済のプリミティブとして再定義する。
フローはシンプルだ:
- エージェントが有料APIにリクエストを送る
- サーバーがデータの代わりに価格情報を返す
- エージェントのウォレットが自動で支払いを完了する
ログイン不要、カード番号不要、人間の介在なし。
このx402をベースにXDC AIが構築したマーケットプレイスでは、エージェントがAPIを検索し、USDC(米ドルと1:1で価値が連動するよう設計されたステーブルコイン)で従量課金し、オーナーが設定した上限の範囲内で動作する。ガス代(ブロックチェーン上でのトランザクション処理手数料)はXDCネットワーク側が負担する設計のため、エージェント自身がXDCトークンを保有する必要もない。
ユーザーはエージェントにウォレットへのアクセスを与え、支出上限を設定するだけだ。あるエージェントが市場調査のために複数の有料データソースにアクセスする必要があれば、アカウント登録やサブスクリプション契約なしに、必要な分だけ都度購入できる。
各社の立ち位置
Mastercardは2025年6月に「Agent Pay for Machines」を発表し、エージェント同士が互いにサービスを購入し合う未来を想定した設計を公開している。数セント以下のマイクロトランザクションにも対応する構想だ。
XDC Tech(XDC Networkの米国法人)は、Stripe傘下のBridgeと統合し、オンチェーン決済と既存の金融インフラをつなぐ。法定通貨とステーブルコイン間の変換インフラを開発者に提供する形だ。
x402の普及という観点では、**Linux Foundationがx402 Foundationの運営を引き受け、Mastercard・Visa・Stripe・American Express・Google・AWS・Circleを含む40社**が参加している。メインストリームの決済レールになったわけではないが、Coinbaseが最初に提案した頃と比べれば制度的な後ろ盾は格段に厚い。
インフラと採用速度のギャップ
XDC Network共同創業者のAtul Khekade氏はこう述べている。
「これまでのインターネット上のすべての取引は、反対側に人間がいることを前提としていた。AIエージェントはその前提を完全に壊しつつある。ソフトウェアが私たちの代わりに行動するなら、都度誰かの承認を待たずに必要なものを支払える手段が必要だ。」
この指摘が示すのは、単なる技術的な課題ではなく、インターネット上の商取引が前提としてきた「信頼の構造」そのものの再設計が求められているという点だ。現行の決済システムにおける不正検知・本人確認・返金処理はすべて人間の行動パターンを前提に組み立てられており、AIエージェントがその主体となった場合に既存の枠組みがそのまま機能するかは未知数である。
ただし、記事は楽観一辺倒ではない。x402のオンチェーン上の実際の取引量は、このエコシステムの評価額と大きくかけ離れている現実も指摘している。決済レール・ウォレット権限・Bridgeとの統合といったインフラは実在するが、現時点でそこを流れる取引量はまだごくわずかだ。
カードネットワークは「信頼とアイデンティティの検証——人間向けに数十年かけて解いた問題——は機械にとっても同様に重要になる」と賭けている。XDCのようなステーブルコイン決済ネットワークは逆の立場をとる。エージェントが大規模にトランザクションを始めたとき、スピードと限りなくゼロに近い手数料がこの市場を定義すると見ている。
どちらが正しいかはユースケース次第だが、Mastercardとこれらのブロックチェーンネットワークが今下しているインフラの意思決定が、自律商取引の実際の姿を形作ることになる。
詳細はAI agents are learning to spend money. Who will handle the payments?を参照していただきたい。