9月12日、PYMNTSが「Rivian's AI Agents Cut 15 Days From Every Close」と題した記事を公開した。月次決算を「15日以上短縮する」と聞けば、業務改善の話と思いがちだが、Rivianが実現したのはそれだけではない——会計ルールそのものをコードから切り離し、経理担当者が自然言語で直接管理できる仕組みを本番稼働させた点が、エンジニアリング観点でも注目に値する。
解きにくい会計問題をAIで自動化
Rivianが自動化したのは、「購買注文見越計上(Purchase Order Accruals)」と呼ばれる経理業務だ。なお「見越計上(Accrual)」とは、現金の収支が発生する前に、発生主義の原則に基づいてコストや収益をあらかじめ帳簿に計上する会計処理を指す。非エンジニアにとってもなじみの薄い用語だが、製造業の月次決算では頻出の概念だ。
自動車製造に使うスタンピングダイや射出成形型といったカスタム工具は、製造に1〜2年かかる。にもかかわらず、Rivianへの請求書が届くのは発注から18ヶ月以上後になることも珍しくない。しかし会計基準上は、請求書が届く前から、コストを時間の経過とともに少しずつ認識し続けなければならない。この「請求なきコストを毎月見積もって計上する」という作業が、従来は大量の手作業を要していた。
Rivianはこの問題を解決するため、Amazon Bedrock上にAIエージェントシステムを構築した。AWSが2025年8月13日に公開したブログ記事によれば、このシステムによってクローズサイクルごとに15日超の手作業が削減された。
コードに会計ルールを書かない、という設計判断
このシステムで最も興味深いのは、会計ルールをコードに書いていないという設計だ。
通常のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や自動化スクリプトでは、業務ルールをプログラムのロジックとして実装する。そのため、ルールが変わるたびに開発者の手が必要になる。
Rivianとアマゾンが採った方針は異なる。会計手続きを自然言語の指示書として記述し、AIエージェントが実行時にその指示を直接読み込む構造にした。ルールを変更したい場合、経理マネージャーがドキュメントを編集するだけでよく、次回の実行から自動的に新しいルールが適用される。コードの変更は不要だ。
処理の流れはこうだ。
- 対応が必要な新規購買注文を検知
- 指示書を参照して処理方針を確認
- 情報が不足していれば担当者にメールで確認
- 計上金額を計算し、仕訳エントリのドラフトを作成
- 人間が承認してから初めて帳簿に反映
「人間の承認」は妥協ではなく設計
ステップ5の人間承認は、あくまで意図的な設計だ。内部統制と外部監査への対応を担保するためで、実際に外部監査人からも「スプレッドシート時代より追跡しやすい」との評価を得たという。
AIが誤った処理をした場合、マネージャーが修正を加えると、その修正内容が指示書にフィードバックされ、同じミスの再発防止につながる仕組みになっている。
Rivianのグローバル財務システム担当シニアディレクター、Yogesh Yadav氏は次のようにコメントしている。
"We've not only eliminated weeks of manual work each month, but we've created a scalable foundation that will support our growth."
概念実証(PoC)は5週間で完成し、その後本番運用へ移行した。Rivianは同じアーキテクチャを他の経理業務にも展開する計画だという。
製造業CFOのAI活用は加速中
この事例は、製造業における財務部門のAI活用という大きな流れの中にある。
PYMNTSインテリジェンスが2024年12月に公開したレポート「CFOs Are Letting AI Into the Finance Function, Carefully」によれば、運転資本モニタリングやキャッシュフロー追跡といった、Rivianが自動化したようなルールベースの経理業務でAIを活用しているCFOはすでに45%に達している。また、同じく2024年12月のレポート「Smarter Spend: AI-Powered AP for Data-Based Decision-Making」では、買掛金チームの66%が前年比で手作業の増加を報告しており、自動化のニーズは依然として高い。いずれも本記事執筆時点(2026年9月)から約2年前のデータだが、傾向を示す参考値として有効だ。
詳細はRivian's AI Agents Cut 15 Days From Every Closeを参照していただきたい。