9月8日、TNW(The Next Web)が「Malaysia weighs Huawei AI chips despite a US warning」と題した記事を公開した。この記事は、Faris Mokhtar、Mackenzie Hawkins、Niki Koswanageの3名によるBloomberg取材報道をTNWが引用・解説したもので、マレーシアが米国の警告を受けながらも、国家AIプロジェクトにHuaweiのAIチップ採用を真剣に検討しているという事態を詳しく伝えている。
「前例なき決断」に向かうマレーシア
Bloombergの報道によれば、マレーシア政府は約20億リンギット(約494億円相当、換算レートは記事公開時点の2026年9月時点のものを参照)の国家AIプログラムに向けて、HuaweiのAIアクセラレータを採用する方向で真剣に検討している。情報源は公式発言を許可されていない内部関係者であり、現時点で契約は成立していない。
これまで外国政府が中国製AIチップを米国製より公式に選択した例はなく、もしマレーシアが最終的にHuaweiを選べば、事実上の「世界初」となる。
問題のチップ:Ascend 910C
マレーシアが検討しているのはHuaweiの「Ascend 910C」だ。より新しい「Ascend 950」シリーズは生産が限定的で対象外とされている。
この910Cは、トランプ政権が昨年名指しで警告した製品だ。米国はこのチップの使用が米国の輸出規制(export regulations)に違反する可能性があると世界に向けて警告済みだ。この規制が主張するのは「域外管轄(extraterritorial authority)」——つまり米国は第三国同士の取引にも自国のルールを適用できるという立場だ。これに公然と反発する政府はこれまでなかった。
性能面では、HuaweiのチップはNvidiaに対してまだ大きく劣っているのが現状だ。Huaweiは米国による製造ツールへのアクセス制限を受け続けながら、長年にわたって開発を続けている。
なぜNvidiaではなくHuawei? 鍵は「データ主権」
マレーシアはAIデータセンターの急成長市場であり、NvidiaやMicrosoft、Oracleといった米国企業が大規模に投資している。にもかかわらずHuaweiを検討する理由は、価格ではなくデータ主権だ。
問題の核心は米国の「クラウド法(US Cloud Act)」にある。この法律により、米国の裁判所は米国のテクノロジー企業に対し、データが海外サーバーに置かれていても提出を命じることができる。軍事・諜報情報を含む政府データを自国内に留めたいマレーシアにとって、米国クラウドは構造的なリスクを抱えている。
アンワル・イブラヒム首相は4月、大学生向けの講演でこう述べたとBloombergは報じた:
「その法律が合理的だとは思わない。しかしトランプ大統領とどう議論しろというのか?」
こうした背景から、マレーシア政府は国営通信会社テレコム・マレーシアを公開入札で選定した。同社はすでにHuaweiとパートナーシップを持ち、クラウドインフラにHuawei技術を採用している(現行のAIコンピューティングサービスはNvidiaチップを使用)。
米国の二段構えの圧力
米国務省はBloombergに対して「信頼できないサプライヤーは権威主義的な政権に操作・支配される可能性がある」と警告した。中国やHuaweiの名指しはしていない。
より具体的な懸念は、Huaweiの機器が諜報情報を扱うことへの危惧だ。外国政府から共有される機密情報も含まれる。マレーシアの国家安全保障会議の当局者は今月後半にワシントンを訪問する予定だ。
また、今回の入札プロセスにNvidiaが公平に参加できなかったと不満を持つ米国側の声もあり、アンワル政権はNvidiaが直接競争できる第2の入札プロセスを検討しているとも報じられている。
「一度引っ込めた話」が再浮上
実はこのシナリオには前例がある。2025年5月、マレーシアの副通信大臣が3,000基のHuawei Ascendチップを用いた国家AIシステムの構築を発表した。しかし発言はほぼ即座に撤回され、政府支援のないプライベートプロジェクトだと説明された。
一部のトランプ政権関係者はこの撤回を「規制が機能した証拠」と解釈した。マレーシアの投資省は別の見方を示し、「輸出管理の遵守を確認しつつ、国益に沿った政策を形成する主権的権利を再確認する」と声明を出した。
その撤回から約16カ月後となる2026年9月現在、同じチップが再びテーブルに戻ってきた。今回政府は距離を置いていない。アンワル政権内部の関係者はBloombergに「この決断は純粋に商業的なものだ」と語ったという。
Huaweiにとっての戦略的価値
Huaweiはエジプトへのデータセンター建設入札でも米国主導の対抗提案を引き出すなど、グローバルサウスを積極的に開拓している。国内でもDeepSeekが新データセンター向けに大規模なHuaweiチップ発注を計画中だ。
Huaweiが現在持っていないのは、公式に名前を明かせる「主権顧客(sovereign customer)」だ。マレーシアがHuaweiを選べば、それは米国製データセンターが既に立ち並ぶ国で、米国が見ている前で、政府が中国製を公式選択したという前例になる。その前例の価値は、20億リンギットという金額を超える。
最終決定はまだ下されていない。第2の入札でNvidiaが逆転する可能性もある。ただ、マレーシア当局者がその議論を公式記録として残し、ワシントンへ向かっている事実は変わらない。
詳細はMalaysia weighs Huawei AI chips despite a US warningを参照していただきたい。