9月8日、Fernando Montenegroが「CrowdStrike Bets on Its Own Models to Secure the AI Revolution」と題した記事を公開した。この記事では、CrowdStrikeが年次イベント「Fal.Con 2026」で発表した自社AIモデル群と新製品群、およびAIエージェント時代のセキュリティ戦略について詳しく紹介されている。
自社モデルという賭け——なぜ今、CrowdStrikeは内製に踏み切ったか
2026年9月1〜3日、ラスベガスのMandalay Bayで開催されたFal.Con 2026には、71カ国4,000組織から1万人超が参加した。CrowdStrikeがこのイベントで打ち出したメッセージは一貫していた。「AIを活用する側ではなく、AIを守る側になる」——そのための手段として同社が選んだのが、汎用LLMへの依存をやめ、セキュリティ専用モデルを自社で構築するという方針だ。
Cisco、Palo Alto Networksなども同様の方向性を打ち出しているが、CrowdStrikeのアプローチが際立つのはその垂直統合の深さにある。NVIDIAと共同で構築し、Falcon プラットフォームが蓄積してきた実際の侵害テレメトリで訓練した点が、汎用モデルに対する差別化の根拠となっている。
具体的には以下のモデルが発表された。
- Red Tempest:オフェンシブセキュリティ(攻撃側シミュレーション)用
- Blue Solano:ディフェンス用。NVIDIAのNemotronをベースに構築
- SafeMind:NVIDIAと共同開発したエージェント型システム。Falconプラットフォームにネイティブ搭載
Red TempestとBlue Solanoの2モデルは「連続的な機械速度でのレッド&ブルーチーム演習」として位置づけられており、攻撃シミュレーションとディフェンスをペアで機能させる設計だ。SafeMindはこれとは別に、エージェント型の自律動作を担うモデルとして位置づけられている。これらはいずれも現時点では広く公開されておらず、Project QuiltWorksと呼ばれる信頼アクセスプログラムを通じてのみ提供される。
これらの研究を推進するために設立されたのがCyber Superintelligence Labだ。元NVIDIAのBartley Richardsonが率い、汎用AGIではなくサイバー防衛に特化したフロンティアAI研究を目的としている。
最も注目すべき概念——「デジタルツイン」
Montenegro氏が記事中で「今週最も示唆に富むアイデアのひとつ」と評したのが、デジタルツイン(enterprise clone)という概念だ。顧客の環境全体をモデル化した"企業の複製"をAIシステムに与えることで、推論の信頼性に不可欠なコンテキストを効率的に構築しようというものだ。AIに適切なコンテキストを持たせることは通常コストがかかる課題であり、デジタルツインはその解決策として理にかなったアプローチである。
Falcon Guardian——AIエージェント自体を守る
今回の発表でもっとも大きく取り上げられたのがFalcon Guardianの一般提供開始だ。AIおよびAIエージェントそのものを発見・保護するための製品で、Pangeaの技術を基盤に、Agent Graphと呼ばれるテレメトリ拡張機能でエージェントを可視化する。
主な機能は以下の通り。
- エージェントの自動検出
- プロンプトの可視化と制御
- ポスチャ管理
- 悪意あるプロンプトの検出
- ロードマップ:スキル・モデル・MCPサーバーのアクセス制御、自動レッドチーミング
あわせてAI Gateway(第4四半期にGA予定、SaaS提供)と、AI Detection and Response(AIDR)向けのFalcon Completeサポートも発表された。
エンドポイントの再設計——最も地に足のついた発表
フロンティアモデルの話題が多い中、Montenegro氏が「最も現実的」と評したのがエンドポイント側の変更だ。CrowdStrikeのChief Technology Innovation OfficerであるAlex Ionescuが、カーネルレベルコードへの依存を減らし、MicrosoftのWindows Endpoint Security PlatformおよびMVI 3.0プログラムに準拠したセンサー再設計を説明した。
この方向性は、2024年7月のCrowdStrikeによる大規模障害(センサーの欠陥によるWindowsブルースクリーン問題)を受けてMicrosoftが推進しているカーネル外モデルへの移行と平仄が合っている。
さらに、エンドポイントのNPU上で小規模言語モデルをローカル実行するオンデバイスAI推論が、センサーバージョン8.10で既に出荷済みだ。クラウド上の大規模モデルと組み合わせた2層設計——クラウドで深い分析、デバイスでプライバシー・レイテンシ・コストを最適化——は合理的な構成といえる。
技術層の次にある難問——ビジネス層のガバナンス
記事でMontenegro氏が繰り返し指摘するのが、「技術的にエージェントを守ることと、ビジネスプロセスの代理として何をしてよいかを統制することは別問題」という点だ。
認可(Authorization)はアクション単位ではなくゴール単位で決まる。ランタイム層だけでは、そもそも記録されなかったインテントは復元できない。CrowdStrikeのアイデンティティチーム自身も「エージェントの認可をどう顧客に説明するか、業界全体でまだ共通言語がない」と認めているという。
CrowdStrikeはSGNLとSeraphicの買収を通じてゼロスタンディング権限やジャストインタイムアクセスの仕組みを整えているが、このビジネス層の問題への回答は「forthcoming(今後の予定)」にとどまっている部分が多い。
Montenegro氏は「Fal.Conのフロアに150社超のパートナーがいた事実」を挙げ、CrowdStrikeがパートナーエコシステムを通じてこの領域に切り込む可能性に言及している。
今後のチェックポイント
記事ではWatchリストとして以下が挙げられている。
- SafeMindとGuardianが本番環境で実際に自律動作するか(デモではなく製品として)
- パートナー経由でビジネス層のガバナンスに踏み込めるか
- カーネル外センサーのモジュール化がGAに至るペース
- AI主導の攻撃が「想定された形」で実際に到来するかどうか(技術層ではなくビジネス層の認可を悪用する攻撃の方が先かもしれない)
自社モデルの内製、エンドポイントの再設計、エージェント保護の製品化——CrowdStrikeが今回示した方向性は一貫しているが、いずれも「デモから本番へ」の距離がまだある。ビジネス層のガバナンスという未解決の難問も含め、次の12カ月でどこまで実装が追いつくかが問われる局面だ。
詳細はCrowdStrike Bets on Its Own Models to Secure the AI Revolutionを参照していただきたい。