9月8日、InfoQが「Platform Engineering in the Age of AI」と題した記事を公開した。AI時代においてプラットフォームエンジニアリングの役割がどう変化しているかを、異なる業界・背景を持つ4名の実務者がラウンドテーブル形式で議論した内容をまとめたものだ。
「標準化か、開発者の自由か」——AI時代でも変わらぬ問い
議論に参加したのは以下の4名だ。
- Davide de Paolis:欧州25チームを横断するプラットフォームチームを率いるエンジニアリングマネージャー(Shine)
- Stephane Di Cesare:約500万顧客を抱えるドイツのオンラインバンクDKBのインフラプラットフォーム担当
- Camila Macedo:Kubernetesオペレーターを中心とした開発者支援に10年以上携わるソフトウェアエンジニア
- Stephen Cihak:Choice Hotelsでクラウドプラットフォーム全体を統括し、現在はHarnessのField CTOとしてEMEA地域を担当
AIが変えたこと——「放置されていたバックログ」の消化
de Paolisは、AIがプラットフォームチームの業務を変えた領域を3つに整理した。
1. 戦術的な作業の自動化:ドキュメント作成、ボイラープレートコード、複数リポジトリにまたがるInfrastructure as Code(IaC:インフラ構成をコードとして定義・管理する手法)の変更など、「重要だが緊急ではなく、常に後回しにされてきたタスク」が、AIによって現実的なコストで実行できるようになった。
2. 複雑な環境の把握:de Paolisのチームは約100個のAWSアカウントと、Terraformで管理された数百のリポジトリを担当している。AIを使って差分の検出やベースラインの特定、データの集約を行い、優先順位付けに活用している。
3. 一次サポートの削減:内部向けのMCPサーバーやAIエージェントを整備することで、チームからの問い合わせの初期対応をAIに委ねられるようになった。プラットフォームチームが直接対応しなくても、エージェントが即座にコードを生成・回答できる。
「AIでコードは速くなった。ではボトルネックはどこへ移ったか」
CihakはAIコード生成の加速がもたらす副作用を指摘する。
コードを書くのにかかる時間が短縮されると、ボトルネックの場所が変わる。以前はリリースが週1回だったが、今はデプロイメントループ——セキュリティスキャン、ガバナンスチェック——がボトルネックになっている。
経営層は「AIツールに投資したのに、なぜコードが本番に出ていかないのか」と問うようになる。プラットフォームチームへのプレッシャーは増しており、手動のフェーズゲートを排除し、「人間のスピード」ではなく「マシンのスピード」で動くパイプラインへの移行が求められていると述べた。
バンキングの現場から——「AIでも、規制の壁は変わらない」
DKBのDi Cesareは、銀行という規制業種ならではの視点を加える。コーディング速度はAIで改善できても、コンプライアンスとセキュリティがそもそもボトルネックであり、そこが解消されなければ意味がないと指摘した。
プラットフォームチームの役割として重要なのは、コンプライアンス・セキュリティ情報を一元管理し、エージェントが参照しやすい形に整備することだという。
さらにDi Cesareはもう一点を挙げた。従来、Terraformの知識ならプラットフォームチームの方が開発者より詳しいという前提があった。しかしAIの登場で両者の知識格差が縮まり、フラットな競争環境になった。今後はプラットフォームチームが「正解を先に持っている」とは限らず、開発者と協力して最善策を探るコントリビューションモデルが必要になると述べた。
「何をプラットフォームに載せ、何を載せないか」——AI時代でも本質は変わらない
de Paolisはこの線引きについて「プラットフォームエンジニアリングで永遠に答えが出ない問いだ」と述べた。
Macedoはより整理された判断軸を示した。
- 共通性:組織全体で共通するニーズか
- リスク:放置した場合のリスクはどの程度か
- コスト:各チームが個別に解決するコストの合計はどれほどか
この3点で判断し、共通化する価値があるものをプラットフォームが担う。AIも「サービスの一つ」に過ぎず、最小権限の原則、明確なパーミッション設定、強固なポリシー、監査ログといった基本原則は人間のユーザーに対するのと同様に適用すべきだと強調した。
AIエージェントのガバナンスをどう整備するか
de Paolisはエージェントの「暴走」リスクへの対処についても言及した。AIがハルシネーションを起こして過剰な行動を取らないよう、ガードレールの整備が必要だ。具体的には、どのMCPサーバーをエージェントが利用できるかを管理し、許可・拒否のリストを設けることが挙げられた。
FinOps(クラウドコストを継続的に最適化する運用手法)の観点からも、プラットフォームチームがAIツールのライセンスを一元管理し、トークン消費の超過やコスト増への対応を担う役割が生まれつつある。
詳細はPlatform Engineering in the Age of AIを参照していただきたい。