9月8日、MIT Technology Reviewが「This AI entrepreneur is developing agents that can plan ahead for the unexpected」と題した記事を公開した。主役はDanijar Hafner——AIが内部に「世界のモデル」を構築し、現実を体験する前に「想像」の中で学習するという手法を、Atariゲームからリアルなロボットまで実証してきた研究者だ。2025年秋にGoogle DeepMindを離れてステルススタートアップを立ち上げた彼が、そのアプローチの何を「世界を変える問題」と見ているのか——本記事はその技術的背景と軌跡を詳しく紹介している。
未知の環境を「想像力」で乗り越えるエージェント
Hafnerのアプローチの核心は、モデルベース強化学習(Model-Based Reinforcement Learning)と呼ばれる手法だ。
通常のロボティクスでは、ロボットが実際の環境でトライアンドエラーを繰り返すことで行動を学習する。しかしHafnerが開発する「世界モデル(World Model)」では、AIが物理的な現実をエミュレートするモデルを内部に構築し、その中でエージェントを訓練する。エージェントは世界モデルをシミュレーションとして扱い、そこでの経験をもとに将来の結果を予測(Hafner自身の言葉では「夢を見る」あるいは「想像する」)する。これにより、訓練で一度も見たことのない状況にも対応できる。
世界モデルというアイデア自体はHafnerの専売特許ではない。Yann LeCunが提唱するJEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)も、将来の状態を潜在空間で予測する点で思想を共有している。一方でHafnerのDreamerシリーズは、強化学習と世界モデルを組み合わせ、エージェントがモデル内部で「夢を見ながら」方策を最適化できる点に特徴がある。環境との実インタラクションを最小化しつつ、複雑なタスクを習得できることを一連のベンチマークで実証してきた点が、学術・産業両面での注目につながっている。
たとえば、ロボットを一般家庭に送り込む場合、そのロボットはトレーニングで使ったものとは異なる間取りや家具配置に対応しなければならない。Hafnerのアプローチはその問題を、大規模な実世界の試行錯誤なしに解決しようとするものだ。
DreamerシリーズとMinecraftダイヤモンド問題
Hafnerはこのアプローチを、ビデオゲームを舞台にした一連のベンチマークで実証してきた。
- PlaNet:先読みして行動を決定できる最初の世界モデル
- Dreamer 2:世界モデルを使ってAtari 2600ゲームで人間レベルのパフォーマンスを達成した最初のエージェント
- Dreamer 3:Minecraftのダイヤモンド採掘チャレンジを初めてクリア(ゲーム内でダイヤモンドを自律的に採掘)
- Dreamer 4:ゲームに直接触れることなく、録画された他のプレイヤーのゲームプレイ映像だけを学習データとしてダイヤモンド採掘を習得
Dreamer 4の達成は特筆に値する。環境とのインタラクションなしにオフラインデータだけで複雑なタスクを習得できるなら、現実世界のロボット展開コストを大幅に削減できる可能性がある。
そして最近では、DayDreamerプロジェクトでこのアルゴリズムを実機ロボットに適用した。具体的には、ロボットが新しいレイアウトの環境に置かれたり、動作中に外力を加えられて姿勢を崩されたりといった、あらかじめ学習していないシナリオへの対応を検証している。DayDreamerのロボットはそうした予期せぬ状況に対して、その場でモデルを更新しながら行動を修正することができた——特定のシナリオ向けの追加トレーニングを施すことなく、だ。
Google DeepMindを去り、ステルスモードへ
Hafnerは現在31歳。ドイツ北東部の農村で、両親がクラシック音楽家という家庭で育った。プログラミングは近所の人から独学し、高校時代にはオンラインでAIを学び始めた。
2015年、ポツダムのハッソ・プラットナー研究所で工学を学ぶ学部2年生のとき、Google Brainの学生研究者として採用される。その後、Geoffrey Hinton(ディープラーニング研究の先駆者の一人であり、2024年ノーベル物理学賞受賞者)や、Transformerを提案した論文「Attention Is All You Need」の共著者であるAshish Vaswaniらと共同研究を行った。
Hafnerの元マネージャーでGoogle DeepMindのTimothy Lillicrapは次のように述べている。
「Googleのリサーチには本当に優秀な人が大勢いるが、彼は上位0.5%に入る。エンジニアのチーム全体が必要なものを、彼は一人で作り上げてしまうことも多かった。」
2025年秋にGoogle DeepMindを退社し、サンフランシスコのSoMaに新オフィスを構えた。現在もステルスモードで、ドアに会社名すら出ていない。オフィスの中央には中国から輸入したヒューマノイドロボットが吊り下げられており、これがHafnerの次の研究の「物理的な具現化」だという。
スタートアップの詳細については口を閉ざしているが、「世界を変えるような問題を解きたかった」とだけ語っている。世界モデルという手法が、ゲームから実機ロボットへ、さらにはステルスのスタートアップへと舞台を移しながらどこへ向かうのか——Hafnerの次の一手に注目が集まる。
詳細はThis AI entrepreneur is developing agents that can plan ahead for the unexpectedを参照していただきたい。