9月9日、StorageReviewが「Qualcomm and Amazon Sign Multi-Generation Deal for Custom AI Inference Silicon and 1.6T Optical Interconnects」と題した記事を公開した。QualcommとAmazonがAI推論向けカスタムシリコンおよび光インターコネクトの複数世代にわたる共同開発契約を締結したという内容で、NVIDIAが圧倒的なシェアを持つAIアクセラレータ市場において、クラウド最大手がどう独自調達路線を描くかという問いに対する、現時点での最も具体的な答えの一つといえる。
QualcommがAWS向けにカスタムAI推論チップを開発
QualcommとAmazonは、AWSのAIデータセンター向けにカスタムシリコンを大規模供給する複数世代の協業契約を締結した。主なターゲットはAI推論(Inference)ワークロードで、Qualcommの省電力プロセッシング技術・シリコン設計・システムインテグレーション能力と、AmazonのAIインフラを組み合わせる内容だ。
ハイパースケール規模での推論実行に伴うコンピュート、メモリ帯域幅、ネットワーク、消費電力の各制約に対処することを狙っている。なお、具体的な製品名・出荷時期・契約金額はいずれも公表されていない。
Qualcommのデータセンター参入は近年加速している。2026年6月のInvestor DayではCPU「Dragonfly C1000」とAI推論アクセラレータ「AI300」を発表し、AI200・AI250・AI300と続くロードマップを明示した。スマートフォン向けSoCで培った電力効率の高さをデータセンター向けに転用する戦略であり、推論ワークロードにおける電力あたりの性能比でNVIDIA製GPUに対抗できると同社は主張している。
1.6Tbps光コネクティビティの共同開発
コンピュートシリコンに加え、両社はAmazonのデータセンターネットワーク向けに1.6Tbps(テラビット毎秒)対応の高性能光コネクティビティを共同開発する。将来世代のロードマップも既に存在するという。
この取り組みは、QualcommがInvestor Dayで発表した高速SerDes(Serializer/Deserializer)および光DSP技術を活用する。推論クラスターがラックをまたいでスケールアウトする際に、ネットワーク帯域幅がボトルネックになることを防ぐのが狙いだ。コンピュートとコネクティビティを一体で設計・供給することで、単体チップ供給にとどまらないシステムレベルの差別化を図る構図となっている。
関係は双方向——QualcommのEDAにAWSを使う
協業は一方通行ではない。Qualcommは自社のEDA(電子設計自動化)ワークロードにAWS AIインフラ、具体的にはAmazon Bedrockを活用する計画も明らかにした。目的はチップ設計サイクルの短縮で、AWSのコンピュートがAmazon向けシリコンの設計・検証を支援するという構図になる。顧客と設計パートナーが互いのインフラを使い合うという関係は、単純なチップ調達契約よりも深い相互依存を生む。
このディールが示すもの
Qualcomm CEOのCristiano Amonは「AIの需要が加速する中、データセンターインフラはコンピューティングとコネクティビティの両面で進化が求められる」とコメント。AWSのVP、Prasad Kalyanaraman氏は「カスタムシリコンと先進コネクティビティの協業により、より高性能で効率的かつコスト効果の高いインフラを提供できる」と述べた。
業界文脈として押さえておきたい点がある。AWSはすでにAnnapurna Labsを通じて独自の学習用チップ「Trainium」と推論用チップ「Inferentia」を設計・運用している。そこにQualcommのシリコンがどう位置づけられるのかは、今回のリリースでは明かされていない。
※編集部の考察:TrainiumとInferentialはAWSが自社最適化した汎用的な推論基盤として機能しており、Qualcommチップは特定のモデルアーキテクチャや電力制約に特化した補完的な役割を担う可能性がある。ただし詳細が公表されていない以上、競合・補完いずれの関係になるかは現時点では判断できない。
一方でQualcommの側は、2026年7月にModular社の買収を完了しており、NVIDIAのCUDAに依存しないソフトウェアスタックを獲得済みだ。AIワークロードの多くがCUDA前提で書かれている現状において、独自スタックの整備はハードウェア単体の競争力と同等かそれ以上に重要な課題であり、Modular買収はその布石として機能する。AI200・AI250・AI300と続く推論アクセラレータのロードマップと合わせると、データセンター事業に本腰を入れている姿勢は明確である。
最大のクラウドプロバイダーからの複数世代コミットメントは、Qualcommのデータセンター事業がこれまでに示した中で最も強い顧客シグナルだ、とStorageReviewは評している。
詳細はQualcomm and Amazon Sign Multi-Generation Deal for Custom AI Inference Silicon and 1.6T Optical Interconnectsを参照していただきたい。