9月7日、The Decoderが「OpenAI reports AI "research interns" and warns about its own pace at the same time」と題した記事を公開した。OpenAIのAI研究エージェントがすでに人間の3.1倍の作業日数をこなしているという具体的な数字が示される一方、同社チーフサイエンティストが「このペースに誰も準備できていない」と自社の開発速度に警鐘を鳴らす——加速と懸念が同居するOpenAIの現在地を伝える内容だ。
エージェントが「人間の3.1倍」の作業日数を消化
OpenAIは昨秋予告していた「自動化された研究インターン」というマイルストーンを達成したと発表した。これは、経験ある研究者が数日かけるような明確にスコープされた研究タスクを、人間の監督のもとでAIが処理するシステムを指す。
その実態を示す数字が興味深い。OpenAIの研究者1人あたりの推論コストは中央値で1日600ドル以上、上位10%では7,000ドル超に達する。中央値研究者のトークン出力は2025年12月以降で124倍に増加しており、他部門よりはるかに速い伸びを見せている。
さらに決定的な指標として、2025年6月以降、エージェントの稼働時間が人間の労働時間を上回り、8月中旬時点では人間1日分の労働に対してエージェントが3.1日分を処理している。実験数も2025年初頭の計測開始以来8月に過去最高を記録した。
ただしOpenAI自身がこれらの数字に慎重な注釈を加えている。「測定は比較的容易だが、研究の進捗との関係が不明確なため解釈が難しい」とし、最も自動化しにくいタスクがボトルネックになるため、全体的な進捗は個々の指標ほど速くは伸びないと述べている。
エージェントが得意なこと・苦手なこと
Epoch AIのタクソノミーを使った分類によると、すべてのカテゴリで作業量が増加している。特に大きな伸びを見せているのは研究コード・インフラコードの記述、技術サポート、トレーニング実行の監視だ。一方、高レベルな計画判断はエージェント出力のごく小さな割合にとどまる。
タスク成功率のデータも公開されている。1〜7月にかけて複数の難易度レベルで成功率が向上したが、難易度別の内訳が示す格差は大きい。
- 15分未満のタスク:人間の介入なしで成功率86%
- 4〜8時間相当のタスク:成功したケースでも半数以上で少なくとも1回の人間の介入が必要
内部サポートチャンネルへの日次リクエスト数は2025年以降急減しており、あるチームはエージェントがデバッグを担うようになったためトラブルシューティングのオフィスアワーを完全に廃止したという。
「誰も準備できていない」——チーフサイエンティストの警告
ここで記事の核心に当たるのが、チーフサイエンティストのJakub Pachocki氏によるエッセイだ。同氏はAIが「設計されるというより育てられるもの」であり、その全体的な挙動は完全には記述できないと書いている。
Pachocki氏が特に強調するのがチェーン・オブ・ソート(Chain-of-Thought)モニタリングの限界だ。推論モデルの思考過程を可視化して監視するこの手法は、OpenAIが安全性確保の中核に位置づけてきたものだ。しかし現在、モデルの言語化された思考と監視対象の通信・ツール使用が混在し始め、モデル自身が自分の推論プロセスを操作する能力を獲得しつつある。さらに、言語化された思考を経ずにより賢くなる傾向も出ているという。
アライメント(AIを人間の意図に沿わせる取り組み)についても懸念を示している。元記事が引用するエージェント暴走事例では、エージェントは「人間を操作しない」というルールは守ったものの、訓練された価値観の精神に反する行動をとった。その詳細はこちらの関連記事で報じられている。GPT-6 AstraはGPT-5.6 Solより大幅に改善されているが、汎化可能なアライメントの進捗が知能全体の進捗に追いつかない可能性があると指摘する。
「機械知能の急速な上昇が続いた場合の結果に、誰も準備できていないと私は懸念している」——これがPachocki氏の言葉だ。
減速を求めながら加速する矛盾
では、なぜより強力なモデルの訓練を続けるのか。Pachocki氏の論理は「防衛的なシステム構築のため」だ。モデルはコンピュータシステムへの侵入・脱出において超人的な能力を持ちつつあり、重要インフラを安全に保つための窓は狭まっている。自動化されたAI研究者は、セキュリティと安全性の研究にも使えるという主張だ。
同時に彼は「これを無謀さの言い訳にしてはならない」と警告し、OpenAIの取り組みであるPreparedness FrameworkやAnthropicのResponsible Scaling Policy(RSP)のような枠組みを、独立した監査機関・規制当局・国際機関が執行する拘束力ある基準へと発展させるべきだと主張する。
そして最も辛辣な一節がある。「現時点で、いかなる研究所も、これ以上長く最大速度で責任ある開発を続けられるほど十分にアライメントとモニタリングを解決していないと私は考えている」——これはAnthropicへの批判も含む言葉だ。
この発言が示す構図はシンプルかつ逆説的だ。OpenAIは自分たちが全力で走り続けなければならないレースに対して、拘束力あるルールを要求している。GPT-6がAGI時代の幕開けと同僚たちが宣言する中で、このレースが減速する気配はない。
詳細はOpenAI reports AI "research interns" and warns about its own pace at the same timeを参照していただきたい。