9月9日、Crunchbaseが「Mistral AI Raises $3.5B At $24B Valuation In Another Record European AI Round」と題した記事を公開した。評価額200億ドル超のプライベートなフロンティアモデル企業は世界に7〜8社しか存在しないが、欧州に本拠を置くのはMistralただ1社だ。パリ拠点の生成AIスタートアップMistral AIが評価額240億ドル・調達額35億ドルで欧州AI史上最大のラウンドを再び更新し、その孤高の立ち位置をさらに強固にした。
1年で評価額がほぼ倍に
Mistral AIは2024年9月のシリーズCで20億ドルを調達し、その時点での評価額は137億ドルだった。今回のシリーズDはほぼ1年後に実施され、評価額は240億ドルへと約1.75倍に膨らんだ。2023年の創業から現在までの累計調達額は75億ドルに達する。
ラウンドをリードしたのはSamsung Electronicsで、EQTが運用するScaleup Europe FundとPSG Equityが共同リードとして参加した。EQTはスウェーデン拠点のグローバルプライベートエクイティ・グループ、PSG Equityはソフトウェア・テック企業への成長投資を専門とするプライベートエクイティだ。
調達した資金はフロンティアモデルの研究拡充、インフラ整備、商業展開の加速に充てられる。現在Mistralは20カ国で事業を展開しており、Airbus、ASML、BMW、HSBCなど125社以上のエンタープライズ顧客を抱える。
OpenAIとの差別化:「自社インフラで動かせる」
Mistralはテキスト生成、コード生成、ドキュメント分析向けのAIモデルを開発しており、OpenAI、Anthropic、Googleと競合する。主力モデルとしては汎用大規模言語モデルのMistral Large、軽量・高速なMistral NeMo、コード生成特化のCodestralなどを展開している。
ただし、戦略上の大きな違いがある。Mistralはモデルをオープンソースで公開しており、企業が自社システム上でモデルをカスタマイズ・運用できる点を強みとして打ち出している。この「オンプレミス・自社クラウドで動かせる」という選択肢は、GDPRをはじめとするデータ保護規制が厳格な欧州市場において特に響く訴求ポイントだ。サードパーティのクラウドプロバイダーに完全依存せずに済むことで、データ主権やコンプライアンス要件が厳しい欧州企業を中心に支持を集めている。
なお、ここで言うフロンティアモデルとは、学術・産業界の最先端を走る大規模AIモデルを指す。OpenAIのGPT-4oやAnthropicのClaude 3.5のように、マルチモーダル処理や複雑な推論を高い精度でこなせるモデル群が該当し、開発には膨大な計算資源と研究投資が必要となる。
欧州VCの潮目が変わった
Crunchbaseのデータによると、2026年Q2(4〜6月期)の欧州ベンチャー調達額は240億ドルと4年間で最強の四半期となった。前四半期比で約3分の1増、2025年Q2比では約3分の2増という数字だ。
Mistralの今回のラウンドは欧州AI企業として過去最大規模を更新したが、欧州では他にも大型ラウンドが相次いでいる。
- Isomorphic Labs(Googleのスピンオフ、ロンドン拠点):2026年5月にThrive Capital主導で21億ドルのシリーズB
- Nscale(AIデータセンタープロバイダー):2026年3月に評価額146億ドルで20億ドルのシリーズC(さらに数十億ドル規模のデット調達も実施)
米中のAI投資が注目を集めるなか、欧州でもファンダメンタルズの強いスタートアップへの資本集中が加速している構図が読み取れる。
欧州唯一の「フロンティアラボ」としての立ち位置
現在、評価額200億ドル超のプライベートなフロンティアモデル企業は世界で7社(中国のByteDanceを含めると8社)存在するが、欧州に本拠を置くのはMistralのみだ。残りはすべて米国または中国に拠点を置く。
欧州ではAI規制の枠組みであるEU AI Actが2024年に発効し、フロンティアモデルを開発・提供する事業者には透明性確保や安全評価といった追加義務が課される方向にある。Mistralはその規制環境のただ中に本拠を置きながら、技術的な競争力を維持している稀有な存在と言える。欧州発のAIモデル企業として唯一このクラスに留まり続けていることは、規制面でも技術面でも独自の存在感を示しており、欧州のAI主権という政策議論においても象徴的な役割を担う。
詳細はMistral AI Raises $3.5B At $24B Valuation In Another Record European AI Roundを参照していただきたい。