9月7日、Inside AI News が「Designers Should Not Fear Being Replaced by AI, Industry Leaders Say」と題した記事を公開した。生成AIの台頭でデザイナーの仕事が奪われるという不安が高まる一方、英国のデザインセクターは2019年から2023年にかけて40%成長を記録し、英国経済全体の成長率23%を大きく上回っている。この反直感的なデータを踏まえ、業界リーダーたちはAIへの恐怖論に正面から反論する。
AIはデザイナーの「社内インターン」
Design Councilのマット・ハンター最高経営責任者は、AIはデザイナーを代替するのではなく、ジュニアアシスタントとして機能するという見方を示した。
一般の不安は根強い。The King's Institute for Artificial Intelligence(キングス・カレッジ・ロンドンが設置するAI研究機関)とPolicy Instituteの共同調査では、国民の57%がAIが大規模な失業を引き起こすと考えている。フリーランスの間では、AIが生成したアウトプットの誤りを修正する低次元の作業を請け負うケースも報告されている。
しかしハンターは逆のシナリオを描く。
「テクノロジーは常に新しい働き方によって人を置き換えてきた。しかし我々は、デザイナーの想像力と創造性が機会を見つけると信じている。英国にはより多くのプロのデザイナーが必要であり、全体の雇用は引き続き成長するはずだ。」
— マット・ハンター(Design Council CEO)
Design Business Councilのデボラ・ドーントン最高経営責任者も同様の立場だ。AIが人間のデザイン作業を模倣するために使われている現実は認めつつも、「模倣はずっと以前から存在していた。AIがそれを可能にしたわけではない」と述べた。
Andrew Duff(英国造園・ランドスケープデザイナー協会の代表)は、業界の多くがまだ不安を抱えていると認めながらも、「デザイン会社はAIを経験豊富なスタッフの代わりではなく、オフィスのインターンとして使うようになる」と予測した。
デザインセクターは実際に成長している
AIへの懸念が高まる中でも、英国デザイン業界の雇用・経済データは強気な数字を示している。
Design Councilが公開した「Design Economy 2026」レポートによると:
- 2019年から2023年末にかけてデザインセクターは40%成長(英国経済全体の成長率23%を大きく上回る)——これはセクター全体の経済規模の拡大率であり、雇用数そのものが40%増加したわけではない点に注意が必要だ
- 建設・サービス・製造業を横断したデザイン関連の雇用は227万人
- 2020年から2025年の間に雇用は15%増加——ChatGPTやClaudeが台頭した期間と重なる
- デザイン産業の経済貢献額(GVA)は1,367億ポンドに達し、小売(1,140億ポンド)や宿泊・飲食(700億ポンド)を超えた
なお、GVA(Gross Value Added:付加価値総額)とは、産業が経済全体に対して生み出した価値を示す指標で、GDPの構成要素にあたる。デザイン産業がこの指標で小売業を上回ったという事実は、英国経済におけるデザインの存在感を端的に示している。
本当の脅威はAIではなく人材不足
ハンターが最大のリスクとして指摘したのは、AIではなくスキルギャップだ。デザイン・テクノロジー分野のGCSE(英国の中等教育修了一般資格)の受験者数は、2024年までの10年間で68%減少した。GCSEは日本の高校入試相当の資格であり、中等教育段階でのデザイン教育離れは将来の人材供給に直接響く問題である。
地域格差も顕著である。付加価値総額(GVA)でみると、南東部が433億ポンドを占める一方、北東部はわずか31億ポンドにとどまる。ウェールズと北東部でそれぞれ8年間で88%・67%の収入増を記録しているが、両地域とも出発点が低かったことには留意が必要だ。
ドーントンは教育への投資を強く訴える。
「次世代の世界を形作る人材を早い段階から育てたいなら、学校に専門教員と設備が必要だ。」
— デボラ・ドーントン(Design Business Council CEO)
「AIで何を作るか」という第二の会話
ドーントンは、AIを巡るビジネス界の議論と、デザイナーの議論が質的に異なると指摘した。
「ビジネスの多くでは、AI議論の中心は効率化・最適化だ。デザイナーはAIと第二の会話をしている——それは、クリエイターの手に渡ったときにAIが開く可能性についてだ。」
— デボラ・ドーントン(Design Business Council CEO)
高スキルのデザイナーを守るのは、スキル・経験・共感力・担当セクターへの深い理解だとドーントンは言う。過去にCAD(コンピュータ支援設計)ソフトが製図工を置き換えたときも、業界が拡大する中で従業員は新しい役割を見つけた。今回も同じパターンをたどると同氏はみている。
AIによる代替という恐怖が議論を支配しがちな中で、英国デザインセクターの実績データと業界リーダーの証言は、少なくとも現時点では異なる方向を指し示している。問題はAIそのものではなく、次世代のデザイナーをどう育てるかにあるというのが、この記事の核心的なメッセージだ。
詳細はDesigners Should Not Fear Being Replaced by AI, Industry Leaders Sayを参照していただきたい。