9月8日、dbreunig.comが「What We Can Learn from Claude's Fable 5.1 System Prompt」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicのClaude Fable 5.1(Claudeの最新モデルシリーズのひとつ)のシステムプロンプトを前バージョンと比較することで見えてくる、モデル設計の意図とプロンプト戦略の変化を論じている。単なる新機能の紹介ではなく、「なぜそのルールが存在するのか」という動機レベルまで踏み込んだ分析が、開発者・プロンプト設計者にとって読む価値がある。
GitHubに非公式に流出したとされるFable 5.1のシステムプロンプト(リポジトリasgeirtj/system_prompts_leaksは非公式なリーク集であり、Anthropicが公式に公開したものではない点に注意)を前バージョンと突き合わせると、Anthropicがどんな問題を踏んで、どう修正してきたかが浮かび上がる。最も具体的で説得力のある発見として、財務情報の定義がどれほど細かく書き直されたかがある。以下でその詳細から見ていく。
財務情報の定義が拡張された理由
記憶・ストレージ機能に関する「保存してはいけない財務情報」の定義が大幅に詳細化された。
旧バージョン:
Socioeconomic status or financial details: income, net worth, balances, debts, credit scores, financial hardship
Fable 5.1:
income or salary (including invoices for someone's own work), net worth, account and savings balances (including the amount saved so far toward a goal), debts, credit scores, financial hardship (recurring payment amounts — rent, mortgage, car, loan — are not financial details and are storable; neither are pay frequency, which bank someone uses, prices, bills, budgets, or savings goals)
定義が細かくなるほど、その境界でトラブルが多発していたことがわかる。請求書や家賃は保存可能、口座残高は不可、といった例外が増えているのは、実際のユーザーリクエストがその境界を踏み続けた結果だ。境界定義の甘さがそのままサポート障害やユーザー混乱に直結するという実例として、プロンプト設計者にとって参照価値が高い。
箇条書き禁止ルールの「なぜ」がついに明文化された
Fable 5やOpus 5(いずれもClaudeの現行モデルシリーズ)が「箇条書きを避けるよう指示されているのに、なぜか箇条書き的な文体になる」という問題はよく指摘されてきた。簡潔な要点を密度の高い段落に押し込んだような、読みにくい散文だ。
Fable 5.1のプロンプトはこの禁止ルールを緩和しつつ、禁止の動機を初めて明文化した。「フォーマットは会話をよそよそしくする」という理由だ。
旧バージョンのプロンプト:
Claude uses lists and bullet points when asked to or when the content is multifaceted enough that they help with clarity.
Fable 5.1のプロンプト:
In friendly, personal, or emotional chats Claude doesn't use formatting. That's because any kind of formatting lends a more formal and professional tone to the conversation that might feel at odds with a personal, emotional, or friendly chat.
「なぜ禁止か」が書かれた結果、モデルはコンテキストに応じて判断できるようになる。単なる禁止命令と、理由付きの禁止命令では、エッジケースでの振る舞いが変わりうる。これはシステムプロンプト設計の実践的な教訓でもある。
「ホットフィックス」としてのシステムプロンプト修正
Fable 5.1では、Claudeが「honestly」「genuinely」「straightforward」といった言葉を使わないよう明示的に禁じるルールが追加された。
Claude avoids saying "genuinely", "honestly", or "straightforward". Claude is honest by default, and can state its point directly rather than trying to convince the person with the aforementioned modifiers, which come off as disingenuous.
筆者はこれを「ホットフィックス」の典型例と呼ぶ。学習で直すには間に合わなかったか、バグ報告が遅すぎたかのどちらかで、文脈内の命令で対処している。次世代モデルでこの記述が消えるかどうかが、訓練で解決できたかどうかの指標になる。
危機対応と「過度な依存の回避」
メンタルヘルス関連のルールにも変化がある。自傷行為に関して、「効果がある」とユーザーが主張した場合でも、Claudeはそれを肯定しないという記述が追加された。
また、クライシスホットライン(危機電話相談窓口)に誘導する際の文言に関して、機密保持や当局の関与について断定的な保証をしてはならないという制約が加わった。相談窓口のポリシーは状況によって異なり、一律の保証は不正確になるためだ。
一方で、前バージョンにあった「会話を継続するよう促す」「引き続き話しかけてと言う」を禁じるルールが削除された。筆者はこの削除の背景データを見たいと述べつつ、「最善のケースでは唐突な会話終了が問題だった。最悪のケースでは利用率や継続率への影響だった」と推測している。この部分はあくまで筆者の推測であり、Anthropicの意図を確認した発言ではない点に注意が必要だ。
ツール呼び出し数の「数値指定」が消えた
検索ツールの使用に関するルールも変化している。
旧バージョンでは「1問なら1回、中程度のタスクは3〜5回、深いリサーチは5〜10回」と具体的な数値が指定されていた。Fable 5.1ではこれが削除され、「効率と品質のバランスをとれ」という指針に置き換わった。
筆者はこれを、改善されたインストラクションフォローの証拠と解釈する。数値を与えると、モデルはその数値を文字通りに従いすぎる。明示的な数値を削って判断に委ねる方が、意図した振る舞いに近づいた可能性がある。
Fable 5登場後に既存のスキル(カスタム指示)が壊れた問題についても、この文脈で説明がつく。Anthropicは既存スキルの大幅な簡略化を推奨しているが、その理由は「モデルが賢くなったから細かい指示が不要」というより、「インストラクションフォローの特性が変わったから、過去の書き方が合わなくなった」と見るべきだ。
モデルは動くターゲットである
筆者の結論は実践的だ。モデルはバージョンごとに特性が変わり、昨日のプロンプトが今日のモデルでは逆効果になりうる。持続可能なシステムを作るには、新モデルへの切り替えが自システムに与える影響を測定する手段と、プロンプトを継続的に更新する仕組みが必要になる。「プロンプト負債」として古いモデルに縛られないためにも。
詳細はWhat We Can Learn from Claude's Fable 5.1 System Promptを参照していただきたい。