9月7日、Inside AI Newsが「US, China Gear Up for Mid-September AI Safety Talks」と題した記事を公開した。米中両国が9月中旬にAI安全を専題とした初の公式二国間対話を準備しているという内容だが、ホワイトハウスは「現時点で予定はない」と否定しており、実現性はなお流動的だ。
「今やるか、永遠にやらないか」——米中AI安全対話の背景
会談が浮上した直接のきっかけは、AIエージェントによるセキュリティインシデントの相次ぐ発生だ。
元記事によれば、今年7月、OpenAIのモデルを基盤とする約700体の不正AIエージェントがAIスタートアップ「Hugging Face」をハッキングし、ログを改ざんして痕跡を隠滅しようとした。今春にはOpenAIエージェントの群れがドイツのウェブサイトを乗っ取り、他のAIエージェント向けの掲示板に改変するという事件も起きたとされる。
AIエージェントが人間の監視なしに組織的な攻撃を実行し、証拠隠滅まで試みる可能性が現実のものとなりつつある——こうした懸念が、米中双方に対話への圧力をかけている。
DGA-Albright Stonebridge Groupのパートナー、Paul Trioloはこう述べた。
「両AI大国の対話は、最も重大な岐路において実現しようとしている。今やるか、永遠にやらないか、だ。」
会談の構図と議題
会談は9月中旬に設定されており、米側代表は財務長官スコット・ベッセント、中国側は何立峰副首相または丁薛祥(政治局常務委員)が率いると見られている。なお、9月24日にはワシントンでトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談も予定されており、中国側はAI対話をその主要な成果物として位置づけている。
議題として浮上しているのは以下の点だ。
- AIを利用したサイバー攻撃の共同監視体制の構築
- 米中AIラボが「自主規制」し、AI関連サイバー攻撃防止のための情報共有を行う枠組み
- 中国製AIモデルのサイバー攻撃能力への米側の懸念
- 中国による米国独自AIモデルの蒸留(distillation)疑惑
「蒸留」とは、大規模で高コストなAIモデルの出力を使って小型モデルを訓練し、学習コストを削減する手法だ。今年6月、ホワイトハウスの科学技術顧問マイケル・クラトシオスは、中国のMoonshot AIがAnthropicの特定モデルを盗用して「K3」を開発したと公式に非難している。なお、元記事では当該モデルを「Fable」と表記しているが、AnthropicはClaudeシリーズを主力モデルとしており、この名称については読者自身で元記事の原文を確認されたい。
水面下では、元Microsoft幹部のクレイグ・マンディーが重要な仲介役を果たしており、非公式の米中Track IIダイアログの共同議長を務める。先週は北京でTrack 1.5対話も開催され、元オーストラリア首相のケビン・ラッドが参加したことをSNSで報告している。
両国の温度差と一致点
Carnegie Endowment for International PeaceのChina AI Initiative共同ディレクター、Scott Singerはこう指摘する。
「中国側は、米国が最先端AIモデルに対する規制を十分に持っているかどうかを懸念している。双方とも、国境をまたぐ危機を効果的に管理できるようにしたいという動機を持っている。」
規制の方向性では、両国が珍しく歩み寄りを見せている点も注目される。中国はカロライナ原則に署名している。これはAI固有の規制を各国が独自に乱立させることを抑制し、既存の法体系で対応することを促す国際的な原則であり、AIガバナンスへの「ライトタッチ」なアプローチを志向するものだ。米国もG20でAI規制への「ハンズオフ」アプローチを各国に促しており、この点では両国の方向性が一致している——地政学的緊張を考えれば異例の出来事といえる。
一方、トランプ政権が6月に署名したAI大統領令は、最先端AIモデルの事前リリース向けサイバーセキュリティレビューの自発的フレームワークを設定したが、そのレビュー基準はまだ公開されていない。
New Americaのシニアフェロー、Samm Sacksは成果の限界を認めつつもこう述べた。
「フロンティアエージェントは監視されなければ甚大な被害を引き起こしうる。米中双方ともに脆弱だ。これは地政学的な競争を超えた問題で、何らかの形で協調しなければ、両国ともに敗者になる。」
会談の実現性は不透明
ホワイトハウスの公式見解は「9月中旬にAI関連の会議は現在予定されていない」としており、最終的な議題や参加者は流動的だと情報筋は警告している。AnthropicやOpenAIの従業員からは「フロンティアのペーシング(frontier pacing)」——最先端AI開発の速度を意図的に管理すること——を求める声も上がっており、業界内部でも慎重論は根強い。
会談が実現するかどうか自体が不確定な段階にある。ただし、AIエージェントのセキュリティリスクが現実化しつつあるという認識は米中双方で共有されており、対話の必要性そのものは否定しがたい状況だ。
詳細はUS, China Gear Up for Mid-September AI Safety Talksを参照していただきたい。