9月6日、The Next Webが「Two more newsrooms join the case against OpenAI and Microsoft」と題した記事を公開した。The Seattle TimesとNewsdayがOpenAI・Microsoftを著作権侵害で提訴し、特にペイウォールを迂回してのスクレイピング疑惑が焦点となっている。
ペイウォール迂回スクレイピングが核心
The Seattle TimesとNewsdayは、OpenAIとMicrosoftを著作権侵害で提訴した。訴状の中で両社の行為を「自分の尻尾を食う蛇」と表現している。これはAIがメディアのコンテンツを無断で取得・学習し、そのコンテンツを代替する生成物を吐き出すことで元のメディアを衰退させていく——つまり、AIが自ら養分にした存在を食い尽くしていくという構造を指している。
今回の訴訟で最も注目すべき主張は、ペイウォールを組織的に迂回してコンテンツを取得したという点だ。これは「何をしたか(学習に使った)」だけでなく、「どのように素材を入手したか」を問う主張であり、これまでの著作権議論とは異なる切り口となっている。
訴状はさらに以下の点も主張している:
- AIが記事そのものの代替コンテンツを生成し、元サイトへのトラフィックと広告収入を奪っている
- モデルがハルシネーション(AIが事実に基づかない情報をもっともらしく生成してしまう現象)を起こし、両メディアに虚偽の情報を帰属させている
- 著作権管理情報が記事から除去されている
訴訟の広がり——なぜ今、メディアが動くのか
両社は、2023年に提訴したニューヨーク・タイムズ、そしてすでに訴訟に参加している400の地方紙に合流する形となった。一方、APやVox MediaはOpenAIとライセンス契約を結んで自社アーカイブを提供する道を選んでいる。
メディア各社が相次いで法的手段に踏み切っている背景には、構造的な危機感がある。生成AIの台頭によってニュース記事の要約や代替コンテンツがAIによって直接提供されるようになり、読者がメディアの元サイトを訪れる必要が薄れてきた。ページビューの減少は広告収入の減少に直結し、サブスクリプション型のペイウォールビジネスモデルも根幹から揺さぶられる。訴訟は単なる過去の著作権侵害への異議申し立てにとどまらず、AIとメディアの収益モデルが今後どう共存するかを問う、業界全体の問題提起でもある。
タイミングも興味深い。同じ日に同じ裁判所へ、Microsoftは「訴状が依拠している2つの法理論(ライセンス料の損失と市場希薄化)を棄却すべき」と申し立てている。
EUの「GPAI行動規範」は何を約束しているか
米国の訴訟と並行して、欧州での動向も見逃せない。EUの汎用AI(GPAI)行動規範の著作権章は、サブスクリプションモデルやペイウォールを名指しで挙げ、アクセスを制限する技術的保護手段を迂回しないことを署名者に義務付けている(2001年著作権指令を根拠とする)。
OpenAIはこの行動規範の署名者であり、規範は2025年8月から適用されている。ただし、今回の訴状が問題とする過去の行為には遡及しない点は留意が必要だ。
同規範はさらに、クローラーに対してrobots.txtの読み取りと遵守を義務付け、裁判所や公的機関が商業的規模での継続的な侵害を認定したサイトを除外することも求めている。
欧米で異なる法的出発点
米国での争点は「迂回行為」と「ページへのアクセス条件」に集中する。欧州では状況が異なり、フェアユースに相当する概念が存在しない。
ペイウォールが著作権上の「権利留保の有効な手段」に当たるかどうかは、欧州でもまだ裁判所の判断が出ていない。オンラインコンテンツについては、機械可読な手段による権利留保が著作権指令で求められているが、ペイウォールがその条件を満たすかは未決着だ。
一方、ドイツでは2025年7月、音楽著作権管理団体GEMAが起こした訴訟で、モデルパラメータに記憶された著作物はその保存時点で侵害にあたるとの判断が裁判所から示されている。欧州の出版社が同様の主張をする場合、米国とは出発点が根本的に異なる。この判断は出版・報道分野にも波及しうるものであり、欧州における訴訟戦略の方向性を左右する重要な先例となっている。
「ペイウォール迂回スクレイピング」という主張が米欧の訴訟・規制両面でどう扱われるかは、今後のAI学習データ調達の法的枠組みを大きく左右する。メディア業界とAI企業の間でライセンス交渉が加速するのか、それとも訴訟によって法的基準が確立されていくのか——その帰趨は業界全体が注視している。
詳細はTwo more newsrooms join the case against OpenAI and Microsoftを参照していただきたい。