9月6日、StorageReviewが「VMware Explore 2026: Broadcom Doubles Down on Private Cloud Economics and Agentic AI」と題した記事を公開した。VMware Explore 2026でBroadcomが打ち出したのは、派手なAI戦略の一方で、年間50億ドル超のうち50〜60%をコンピュート・ネットワーキング・ストレージという基盤部分に投じるという地に足のついた方針だ。とりわけ注目を集めたのが、仮想マシンを停止させることなく脆弱性を修正するダウンタイムゼロのライブパッチと、エージェントAIのソフトウェアサプライチェーンを暗号署名で保護するTrueSourceの二つである。本稿ではその発表内容を順に追う。
基調講演のポイント:経済合理性とライブパッチ
基調講演でBroadcomのInfrastructure Software Group社長のRam Velaga氏が強調したのは、メモリ価格の上昇が「一時的なサプライチェーン問題」ではなく、インフラ計画に長期的な影響を与える構造的な問題だということだ。そのうえで彼が提唱したのは、パブリッククラウドへの全面移行ではなく、ワークロードの現実的な回帰(repatriation)だった。VMwareの基本的な主張は変わらない。コンピュート・ストレージ・ネットワーキングをアプリケーション層から切り離すことで、エンタープライズITの効率を高めるというものだ。
エンジニア視点で特に目を引いたのが、Paul Turner氏のチームによるライブデモだ。VCF(VMware Cloud Foundation)AI AssistantとESXiのライブパッチ機能を組み合わせ、仮想マシンを停止させることなく脆弱性を修正するというものだった。VMware Cloud Foundationは、vSphere・vSAN・NSXといったVMwareの主要コンポーネントを統合したプライベートクラウド基盤製品である。デモでは、数週間前に誤って無効化されていたDRS(Distributed Resource Scheduler)——クラスター内の仮想マシンの負荷を自動的に分散するvSphereの機能——の設定ドリフトを自動検出し、事前チェックを走らせたうえで、ESXiのパッチ適用まで完了した。ダウンタイムゼロでの脆弱性対応は、多くの運用チームが抱える課題への直接的な回答だ。
AIソフトウェアサプライチェーンへの対応:TrueSource
TanzuのVP兼GM、Purnima Padmanabhan氏が発表したTrueSourceは、この日の発表の中で最も具体的なセキュリティ施策だ。エージェントAIのパイプラインはPython・Java・Node.js・SpringなどをパブリックリポジトリからPullする構成が多く、依存関係に潜むリスクが問題になっている。TrueSourceは、PostgreSQL・MySQL・RabbitMQ・Valkeyといったランタイムフレームワークおよびデータストアを、暗号署名付きで継続パッチ適用するキュレーテッドリポジトリとして機能する。ValkeyはRedisのライセンス変更を契機に2024年にLinux Foundationのもとで立ち上がったオープンソースのインメモリデータストアであり、Redis互換の後継OSSとして急速に採用が広がっている(Valkeyプロジェクト公式)。TrueSourceはTanzuのエージェントサンドボックスやハイパーバイザーレベルの分散ファイアウォールと組み合わせて使う想定だ。
TrueSourceを軸に据えたセキュリティ戦略は、後述するSymantecチームとの連携にも通じる。Broadcom内部のサイロ解体の一例として、SymantecのエンジニアリングチームがEDR(Endpoint Detection and Response)的なハイパーバイザー防御と仮想パッチ適用をVCFに直接組み込む取り組みが進んでいる。サプライチェーンの完全性担保(TrueSource)とランタイム保護(Symantec由来の防御機構)を一体化させようとする方向性が見える。
顧客事例:Standard Chartered銀行とUnited航空
Standard Chartered銀行のHemant Deshpande氏は、ファクトリー統合済みの標準化ラック構成を紹介した。サプライヤー施設でケーブリング・検証・vSANストレージの設定まで完了させることで、デプロイ期間を「数ヶ月から数日」に短縮。さらに高密度仮想化クラスターへの移行により、データセンターの消費電力を40〜45%削減したという。
United航空はKubernetesの活用事例を紹介した。コンテナと従来のVMを別々の環境で運用するのではなく、TerraformとAvi Global Server Load Balancing(VMwareが提供するソフトウェア定義のロードバランサー/ADC製品)をCI/CDパイプラインに直接統合。アプリケーションチームがヘルプデスクチケットを切ることなく、複数のオンプレミスサイトとハイブリッドクラウドにまたがるアクティブ-アクティブのマイクロサービスを展開できる体制を実現している。
VMwareリーダーシップとのセッションから
VMware by BroadcomのエンジニアリングシニアディレクターDilpreet Bindra氏との対話では、VCF 9.1の位置づけが明確になった。VM・コンテナ・AIワークロードを単一の共通インフラプラットフォームに統合することが目標で、開発者がワークロードの種類ごとに異なるインフラスタックを操作する必要をなくす。一方で、AIによる自律的なインフラ運用については慎重な見方を示した。「ルーティンで低リスクな作業からAIエージェントに委ねていき、本番環境のクリティカルな判断は人間が担う段階を経て、信頼を積み上げていくべきだ」というのが彼のスタンスだ。
VMware Cloud FoundationのChief Technologist、Sabina Anja氏は、AIエージェントが常時通信を行う環境ではトラフィックが継続的に飽和するため、ワークロードのローカリゼーションやQoS、トラフィックエンジニアリングが重要になると指摘した。揮発性のDRAMコストがNVMeを使ったメモリ階層化の採用を加速させており、インフラ設計は「現在の需要」ではなく「将来のデータ需要」に向けて行うべきだと強調した。
Global Head of AI、Chris Wolf氏は、VMwareが3年前から取り組んできたプライベートAIの変遷を振り返った。vLLMやHarborコンテナレジストリへの初期のベットは正しかったが、市場が追いつくのに2年かかったという。また、当初はNVIDIA vGPUを重視していたが、顧客のエッジ展開ニーズに応えて、よりシンプルなパススルー構成への対応を進めた経緯も明かした。
Ram Velaga氏Q&Aセッション
少人数のメディア向けQ&Aでは、Velaga氏がいくつかの具体的な数字を示した。Broadcomは年間50億ドル超をソフトウェアエンジニアリングに投資しているが、そのうち50〜60%はコンピュート・ネットワーキング・ストレージという基盤部分に充てているという。AIへの全振りではなく、基盤の信頼性維持を優先している構造だ。
企業がワークロードをプライベートクラウドに回帰させている理由として、彼が挙げたのはコスト以外にデータ主権と知的財産の保護だ。規制業種では、センシティブなデータやAIワークフローをより厳格に管理することが、パブリッククラウドのAIサービスコストと同等以上に重要な検討事項になってきているという。
なお、Explore 2027は引き続きラスベガスで開催されるが、会場がResorts Worldに移り、2027年5月3〜6日の開催となる。
詳細はVMware Explore 2026: Broadcom Doubles Down on Private Cloud Economics and Agentic AIを参照していただきたい。