9月5日、Hackadayが「Can AI Now Design PCBs That Just Work?」と題した記事を公開した。OpenAIのGPT-6 AstraがKiCadでPCBを設計できるというOpenAIの主張を、第三者ベンチマークで検証した結果を詳しく紹介している。
OpenAIが主張する「PCB自動設計」とは
OpenAIはGPT-6 Astraのリリースに際し、「回路図を与えるだけで、製造可能な状態まで完全にルーティングされたPCBを出力できる」と明言した。KiCadはオープンソースのEDA(Electronic Design Automation=電子設計自動化)ツールとして広く使われており、回路図の作成から基板レイアウト、ガーバーデータの出力まで一貫して扱える。その上でAIが実務レベルのPCB設計をこなせるかどうかは、ハードウェアエンジニアにとって切実な問いだ。
ただし、この手の「自動化デモ」は厳密に管理された条件下でのみ動くパーティートリックで終わることが多い。既存のオートルーター(部品間の配線経路を自動生成するソフトウェア機能)がそうであったように。
EEBenchとは何か:ベンチマークの方法論
独立した検証を行ったのはEEBenchだ。電気工学エージェントのベンチマークとして、AIが実際のハードウェア設計業務でどこまで使えるかを測定している。
EEBenchが課すタスクは、単純な回路生成にとどまらない。具体的には、回路図からの部品配置・配線(ルーティング)、設計ルールチェック(DRC)のクリア、電気的制約を満たす配線幅・クリアランスの選定といった工程が含まれる。ルーティングとは、基板上の銅箔パターンによって各部品のピンを電気的につなぐ作業で、信号の完全性やノイズ耐性に直結するため、単に「つながっていればよい」という話にはならない。また、エッジケース(設計上の想定外条件や境界値)への対応も評価対象となっており、理想的な入力だけでなく現実的な条件下での堅牢性が問われる。
このベンチマークは、KiCadでコードベースのPCB設計を行うシステムAtopileの開発者が手がけている。AtopileはAIエージェントによる設計利用を強く意識して構築されており、今回の検証はそのパイプライン上での評価という側面もある点は留意が必要だ。
検証結果:**69.3%**という数字の意味と限界
結果、GPT-6 AstraはEEBenchスコア69.3%(±10%)を記録した。Claude Opus 5とほぼ同等の水準で、価格と速度の面では優位だという。
ここで「±10%」という誤差幅に注目したい。これはサンプル数の少なさや、タスクごとの難易度のばらつきを反映したものであり、実際のスコアは59%台から79%台まで振れる可能性があることを意味する。つまり69.3%という数字は点推定として示されているが、再現性や安定性の観点では慎重に読む必要がある。「AIが7割の設計タスクをこなせる」という解釈は早計で、条件次第で大きく結果が変わりうるベンチマークであることは前提として押さえておきたい。
また、EEBenchが定める「合格ライン」や「実務水準」に相当するスコアの閾値は現時点で公開されていない。69.3%が高いのか低いのかは、絶対値だけでは判断しにくく、今後のバージョンアップや他モデルとの相対比較の蓄積によって意味が明確になってくる性質の数字だ。
2024年時点との比較:進歩はあるか
Hackadayは2024年にもLLMを使った回路基板設計の検証を行っており、当時の結論は「結局、手で全部やった方が早い」というものだった。
それから約2年、定量的なスコアとして結果が出るようになったこと自体は進歩だ。しかしEEBenchの方法論が示す通り、回路図から配置・配線済みPCBを生成するのはエンジニアリング作業全体の一ステップに過ぎない。熱設計、EMC(電磁適合性)対策、製造制約への対応といった工程は、今回の評価スコープには含まれていない点も念頭に置く必要がある。
「ハードウェアエンジニアの仕事がなくなる」のはまだ先
記事が明言しているように、ハードウェアエンジニアが今すぐ職を失う状況ではない。
プロトタイプを素早く試す「ノリで基板を作る」用途ではAIが便利な近道になる可能性はある。しかし量産前提のボードでは、すべてのエッジケースへの対応、複数エンジニアによる独立した検証、厳格なテストの通過が求められる。69.3%というスコアは、そのハードルを越えているとは言い難い。合格ラインの定義自体が議論の余地を残している以上、「まだ遠い」という評価もあくまで現時点での相対的な判断にとどまる。
ソフトウェアのバイブコーディング(vibe-coding)——厳密な仕様定義なしに対話的にコードを生成する開発スタイル——がある種の局面では実用になっているのと同様、「バイブPCB設計」はあくまでプロトタイプ段階での補助ツールとして位置づけるのが現実的だ。
詳細はCan AI Now Design PCBs That Just Work?を参照していただきたい。