9月4日、CalMattersが「Fact check: Is Sam Altman right that almonds use more water than ChatGPT queries?」と題した記事を公開した。OpenAI CEOのSam AltmanがChatGPTの水使用量は極めて少ないと主張したが、専門家の結論は端的だ——その数字は正しいかどうかすら検証できない。公開データが存在しないからだ。AIインフラの水消費をめぐる透明性の欠如という、業界全体が直面する構造的問題を浮き彫りにしたファクトチェックの内容を紹介する。
「ChatGPT 3万8000回でアーモンド1粒分」——Altmanの主張
AltmanはポッドキャストSources(Alex Heath司会)の中で、ChatGPTへのクエリ3万8000回分がカリフォルニア産アーモンド1粒の生産に必要な水使用量と同等だと述べた。さらに「最新の大型データセンターは、オフィスビルでトイレや蛇口を使う程度の水しか消費しない」とも主張し、AIの水使用量への懸念は「どんな精査にも耐えられない」と一蹴した。
だが、専門家の反応は冷ややかだ。
検証不能——公開データが存在しない
UC Riverside電気・コンピュータ工学科のShaolei Ren教授は、「われわれが持つ情報はあまりにも限られている」と指摘する。データセンターの水使用量は、以下のような無数の変数に左右される。
- データセンターの立地・外気温
- 冷却システムの種類
- プロンプトの長さ・推論の複雑さ
- 出力の量
つまり、1クエリあたりの水使用量を単一の数字に落とし込むこと自体に無理がある。
UC Berkeley法・エネルギー・環境センター(Wheeler Water Institute)のMichael Kiparsky所長も「公開データは存在しない——少なくともカリフォルニアには。公開されているものはバラバラで信頼性に欠ける」と述べ、Altmanの数字を裏付ける方法がないと強調した。
OpenAIを含む大手AI企業は、個別データセンターの水使用量を非公開としている。Altmanが示した数字の算出根拠も明らかにされておらず、現時点では第三者が独立して検証する手段がない。
データが示す現実:使用量は確実に増加している
Altmanの主張の真偽は確認できないが、データセンター全体の水使用量が増加していることは複数の調査が示している。
- 2023年の直接水使用量:約170億ガロン(2014年の56億ガロンから増加)
- ハイパースケールデータセンターは2025〜2030年の間に最大1500億ガロンを消費する可能性がある——米国の460万世帯が1年間に使う水量に相当する
さらに見落とされがちなのが「ピーク需要」の問題だ。Ren教授らの研究(現在査読中のプレプリントであり、掲載データは確定値ではないことに留意が必要。プレプリントはarXivで公開中)によると、猛暑日にデータセンターの冷却システムが必要とするピーク水需要は、1日あたり6億9700万〜14億5000万ガロン増加する可能性がある。これはニューヨーク市の平均日間供給量に匹敵する規模だ。
農業用水と異なり、データセンターが使う水の多くは公共水道からの処理済み飲料水である点も重要だ。アメリカ各地、特にカリフォルニアの水道インフラは「老朽化・分散化・財政難」の状態にあり、大型データセンターのピーク需要に対応できる余力がないとRen教授は警告する。ジョージア州やバージニア州では、水道事業者が複数のデータセンターが同時に水を引いた場合「水が足りない」と懸念を示した事例もある。
カリフォルニアという文脈——慢性的な水不足と農業との競合
カリフォルニアは全米有数のアーモンド産地であると同時に、慢性的な水不足に悩む州でもある。近年の記録的な干ばつは農業用水の配分を巡る争いを激化させており、州内の水資源管理は政治的にも経済的にも極めてセンシティブな問題だ。アーモンドをはじめとする農業部門がすでに水資源の大部分を消費している状況の中に、大量の処理済み飲料水を必要とするデータセンターが急増しているという構図がある。
Altmanが「アーモンドと比較すれば少ない」という文脈でAIの水使用量を語ったのは、こうした背景があるためだ。だが専門家が指摘するのは、農業用水とデータセンターの水は性質が異なるという点だ。農業用水の多くは井戸水や灌漑用水だが、データセンターが使うのは公共水道の飲料水であり、インフラへの負荷の種類が根本的に異なる。
カリフォルニアの規制動向
こうした背景のもと、カリフォルニア州議会ではAssemblymember Diane Papanが提出した透明性確保を目的とする2本の法案が可決され、現在Newsom知事の署名待ちの状態にある。
- AB 2619:事業許可申請時に水源と使用量の報告を義務付ける
- AB 2469:水利用計画の開示なしに新規データセンターを地方政府が承認することを禁止。必要な給水設備の増強費用は開発者負担とする
Newsomは昨年、同様のPapan法案を「ビジネスや消費者への影響を十分理解せずに厳格な報告義務を課すことには慎重だ」として拒否権を発動している。今回も大手テック企業と経済団体が反対しているが、州内各地でデータセンター建設への反発が高まる中、知事の判断が注目される。
なお、水使用量を最大50%削減できるとされる乾式冷却(ドライクーリング)という選択肢も存在するが、エネルギー消費が増加するというトレードオフがある。そしてそのエネルギー生産にも水が必要になる。
Altmanの「アーモンド1粒3万8000クエリ」という数字は、それが正しいかどうかすら現状では検証できない。透明性の欠如こそが問題の核心であり、それを解決しようとしているのが今回の法案だ。
詳細はFact check: Is Sam Altman right that almonds use more water than ChatGPT queries?を参照していただきたい。