9月4日、Cybersecurity Diveが「OpenAI pledges $1 billion to provide resources, training for frontline cyber defenders」と題した記事を公開した。OpenAIが水道・電力・地方自治体など重要インフラの防衛者向けに10億ドル規模の補助付きAIアクセスと訓練を提供するプログラム「Daybreak」を発表したことについて詳しく紹介されている。
「攻撃者がAIを使うなら、防衛者にも同じAIを」
OpenAIは2025年9月4日(元記事公開日)、「Daybreak for Frontline Defenders」プログラムを発表した。補助付きアクセス(subsidized access)とトレーニングの形で10億ドル相当のリソースを提供し、小規模なITセキュリティチームがフロンティアAI(最先端AI)をサイバー防衛に活用できるよう支援する。
対象は電力・飲料水・地方政府サービスなど、社会インフラを担いながらも人員・予算ともに乏しい組織だ。具体的な用途として、以下が挙げられている:
- ソフトウェアの重大な脆弱性の探索
- テクノロジースタック上での不審な挙動の検知(脅威ハンティング)
- 攻撃者がシステムに侵入した際の悪意ある行動の阻止
まず**Multi-State Information Sharing and Analysis Center(MS-ISAC)と連携した6ヶ月間のパイロットプログラム**が実施され、水道事業者などの公共セクター防衛者を対象にトレーニングと支援が行われる。医療分野でもHealth Information Sharing and Analysis Center(H-ISAC)が参加し、病院・医療機関向けの支援が展開される。さらにオープンソースメンテナーへの追加リソース提供も含まれる。
なお、ここでいう「補助付きアクセス」とは、費用の全額をOpenAIが負担するものではなく、参加組織の負担を軽減する形でのアクセス提供を指す。完全無償とは異なる点に注意が必要だ。
なぜ今、重要インフラなのか
背景にあるのは、AIが攻撃側のハードルを大きく下げたという現実だ。
Center for Internet Security(CIS)のCTO、Brian Calkin氏はCybersecurity Diveに対し次のように述べている:
「脆弱性のスキャンや攻撃の自動化にはかつて高度なスキルと時間が必要だったが、AIの登場でその参入障壁は下がった。州・地方政府にとってこれは深刻な問題だ。彼らは地域住民が毎日依存するシステムを運用しながら、全米で最も標的にされ、最もリソースに乏しい組織群でもある」
実際に2025年7月、イラン関連とみられるアクターが米国12州以上の飲料水・廃水処理施設に対して協調攻撃を仕掛け、多数の施設でシステムオペレーターが自身のネットワークからロックアウトされ、一時的な断水まで発生している。ホワイトハウスとテキサス州も連携し、地方の水道事業者保護を目的とした「Project Watershed 250」パイロットプログラムを立ち上げた。
OpenAIは先月末、国家レベルおよび犯罪組織によるフロンティアAIの悪用に対抗するための集団的行動を呼びかけ、米当局に介入を求めた。セキュリティチームが脆弱性に対処するよりも速く、攻撃者がそれを発見・武器化できるようになるという懸念が、その背景にある。
Daybreakが届けようとするもの
Daybreakプログラムは、潤沢なリソースを持つ大企業ではなく、予算的に手が届かなかったインフラの「ラストマイル」にAI防衛能力を届けようという試みだ。H-ISACのCSO、Errol Weiss氏は「病院や医療機関にとって、こうした補助付きアクセスは最も必要とされる場所に直接、不可欠なサイバーセキュリティ能力を届けられる」と述べている。
攻撃者がAIを武器として活用できる環境が整いつつある今、防衛側にも同等のツールを届けるという発想は、インフラセキュリティの構造的な非対称性を是正しようとするものだ。Daybreakのパイロット結果が、今後の重要インフラ保護政策にどう影響するかが注目される。
詳細はOpenAI pledges $1 billion to provide resources, training for frontline cyber defendersを参照していただきたい。