9月4日、Help Net Securityが「Most of the bugs Claude Mythos found have never been checked by a human」と題した記事を公開した。AnthropicのAIモデル「Claude Mythos」が281のオープンソースプロジェクトを解析した結果、2万3,000件超の脆弱性候補を検出したが、人間によるレビューが完了したのはそのうち1,900件にとどまるという。しかもエクスプロイト生成能力は前世代比で約90倍に跳躍しており、AIの発見速度が人間の処理能力を大きく上回りつつある実態が明らかになった。
なお、「Claude Mythos」はAnthropicが公開した研究用プレビューモデルであり、一般向けに正式リリースされた通常のClaudeシリーズ(Claude 3.5 SonnetやClaude Opus 4など)とは別に、セキュリティリサーチ用途を想定して提供されているモデルだ。また、この調査結果を報告しているEchoは、ソフトウェアサプライチェーンセキュリティを専門とする企業であり、Anthropicとは独立した立場から脆弱性のレビューおよびメンテナーへの送付を担っている。
発見件数と実際にレビューされた件数の乖離
Anthropicは281のオープンソースプロジェクトにClaude Mythos Previewを適用し、23,019件の脆弱性候補を収集した。このうち外部のセキュリティ企業がレビューしたのは1,900件。さらにメンテナーへ送付されたのは1,596件、認知されたのは1,451件、アップストリームへの修正が取り込まれたのは97件、公開セキュリティアドバイザリとなったのは88件だ(いずれも2026年5月22日時点)。
残る21,119件はAnthropicの外部で誰にもレビューされていない。Anthropic自身、このボトルネックの原因を「確認する人員の不足」と説明している。
ただし、この1,900件が全体の無作為サンプルだったとは考えにくい。Echoはこの点に注意を促している——レビューに回ったのはおそらく精度の高い候補に偏っており、90.8%という真陽性率は「厳選された上位サンプルの精度」を示している可能性が高い。残り21,000件の精度はAnthropicも公表していない。
深刻度スコアは生き残らなかった
CVEが付与された88件のアドバイザリのうち27件について、モデルの付けた深刻度と最終評価を比較すると、14件で不一致が生じた。13件がモデルの過大評価、1件が過小評価だ。
典型的な2件を挙げる。
Temporal Server:Mythosは「攻撃者が名前空間をまたいでワークフローを制御できる」としてCritical評価を付けた。TemporalのメンテナーはこれをCVSS 2.3(Low)と判定した。実際の攻撃には、攻撃者が管理する名前空間と、そこに存在する特権内部クレデンシャルが前提として必要であり、影響範囲も既知のワークフローのみに限られる。
MinIO:MythosはCritical、外部セキュリティ企業はHigh、MinIO自身はMediumと結論づけた。攻撃にはクラスターのルートJWTが既に必要であり、得られるのは読み取りアクセスのみだ。
深刻度評価は、デプロイ環境の前提条件・権限境界・攻撃の事前条件に大きく依存する。これらはソースコードだけからは読み取りにくく、AIモデルが苦手とする領域だ。モデルの評価順に脆弱性をトリアージすると、実際には優先度の低い問題が上位に来るリスクがある。この傾向は、CVSSスコアの算出における「攻撃前提条件(Attack Requirements)」の扱いが現場での運用と乖離しやすいという既知の課題とも重なる。
エクスプロイト生成能力:90倍の跳躍
Anthropicは、Firefox 147に搭載されているJavaScriptエンジン「SpiderMonkey」における既知の脆弱性50件からベンチマークを構築し、各モデルに1件あたり5回、計250試行を実施した。
Claude Mythos Previewは、既知のクラッシュを動作する任意コード実行エクスプロイトに変換する成功率が72.4%(250試行中181回)。一方、Claude Opus 4.6の成功率は1%未満の2回だった。世代間でおよそ90倍の差が出た計算になる。
ただし、このベンチマークには三つの前提条件がある。
- 各試行は「すでに誰かが発見したクラッシュ」から開始する
- Firefoxのブラウザサンドボックスをはじめとした多層防御が除去されている
- 評価の設計・実施はAnthropicが行っており、独立した第三者による再現は行われていない
コスト面では、Anthropicは既知のLinuxカーネルのuse-after-free脆弱性を2,000ドル未満の推論コストと1日未満で動作するrootエクスプロイトに変換した。その際、カーネルのトラフィック制御スケジューラに存在する別のuse-after-freeを自力で発見してチェーンしている。ただし、高・重大深刻度の脆弱性が得られる保証はなく、有意な結果を出すには数千ドルのコストがかかる。
「検出できても直せない」問題
EchoがUS企業の上級セキュリティリーダー80人以上を対象に2026年7月に実施した調査では、37%が「修正できる量を超えた脆弱性の検出」をソフトウェアサプライチェーンセキュリティ改善の最大の障壁に挙げた。次の投資として「さらなる検出・スキャン強化」を挙げたのは11%にとどまる。
Anthropic自身も、手動で確認した脆弱性の中に、まだメンテナーへ送付できていないものが残っていることを認めている。自社チームと外部パートナーの両方でレビューキャパシティが不足しているためだ。
AIによる脆弱性発見の速度がレビュー・修正の速度を上回り始めており、検出精度よりも処理体制がボトルネックになりつつある実態が浮かび上がっている。発見数を増やすことよりも、発見済みの脆弱性をいかに確実に修正まで届けるかが、現時点での最大の課題といえる。
詳細はMost of the bugs Claude Mythos found have never been checked by a humanを参照していただきたい。