9月4日、Digidayが「Media agencies build audit tools to prevent AI agents from overcharging」と題した記事を公開した。AIエージェントによる広告購買の自動化が進む中、過剰なトークン消費や予算超過を防ぐために監査ツールを自社開発するメディア代理店が相次いでいる。既製品では対応しきれないと判断した代理店が自ら手を動かし始めているという事実は、AIエージェント活用が実験フェーズを脱しつつあることを如実に示している。
「放置すると、あっという間に制御不能になる」
AIエージェントを広告プランニングや購買に導入した代理店が、共通の問題に直面している。エージェントを監視せずに動かすと、意図しない行動を取り、コストが跳ね上がるのだ。
Gartnerが2025年4月に実施した1,300人のシニアマーケター調査によれば、56%の企業がAIツールを明確な利用ポリシーなしで導入しており、特にマーケティングリーダーは財務的な管理を設定していないケースが多い。同社はさらに、AIを利用する組織の60%がコスト超過を経験するとも予測している(あくまで予測値であり、現時点での確定的な実績数字ではない)。
「制御を失うのは、本当にあっという間だ」と語るのは、デジタルエージェンシー・DeptのグローバルEVP(技術担当)Jonathan Whiteside氏だ。
代理店が導入し始めた監査ログの仕組み
Quadエージェンシーグループ傘下のパフォーマンスメディア代理店Riseは、2025年6月からスーパーマーケットクライアントを対象にAI媒体購買エージェントのテストを開始した。
Riseが活用しているのは、SSP(Supply-Side Platform)プロバイダーの**PubMaticが提供する監査ログ機能**だ。エージェントがあらかじめ設定したパラメーターから「逸脱(ドリフト)」した際に検知し、実行されたアクションをすべて記録する。
PubMatic セールスエンジニアリング担当ディレクターのHarry Tong氏によると、「エージェントが任意の環境で行ったすべての変更はタイムスタンプ付きで保存され、変更内容の詳細と、それがUI操作によるものかどうかも記録される」という。
Riseのグループディレクター、Klaudia Smykowska氏はこの機能をこう説明する。「『なぜその変更をしたのか?最初のブリーフからどんな思考プロセスがあったのか?』と問い返せる。何が起きて、なぜそうなったかを再構成できるようにしておくことが重要だ。」
PubMaticはRise以外にも、Butler/TillやオランダのAbovo Maxleadといった代理店と連携してこのツールをテストしている。
本質的な問題はモデル選択にある
監査ログで「何をしたか」は追跡できるが、「いくらかかったか」の把握は別の問題だ。現時点ではPubMaticの監査ツールはトークンコストまでは算出しない。Riseはライセンス費用・トークン消費量・従業員の工数・ワーキングメディア比率を組み合わせて「かなり荒い計算式」でコストを推定している(SVP George Forge氏談)。
コスト問題の根本として、Gartnerアナリストのニコール・グリーン氏が指摘するのがモデル選択だ。「トークン消費コストの多くは、タスクに対して適切なモデルを選んでいないことが原因だ」。より高性能なモデルを使えば、それだけ計算資源を消費し、コストが増大する。
各代理店はこの問題への対処をそれぞれ独自に進めている。
Brainlabs:スタッフにトークンをティアシステムで割り当て、上限を超えたら審査を経て追加付与。CEO Daniel Gilbert氏は「スタッフに使ってほしい。ただし、有意義に使ってほしい」と語り、この監視体制を「あれば嬉しい機能ではなく、存続に関わる問題だ」と位置づける。
Dept:「AIゲートウェイ」を導入し、スタッフが個別にモデルを選択する権限を剥奪。プロンプトやエージェント起動時、商業的・法的考慮に基づいて使用モデルを一元管理する。背景には「1日で150万トークンを消費したスタッフがいた」という実例がある。なお、データを自国外に置けないクライアントからの要件で、米国外でホスト可能なモデルに限定せざるを得ないケースも出てきているという。
PMG:「Alli For You」と呼ぶ社内ツールを開発し、ユーザーごとに1日あたりのトークン使用上限を設定。上限に常時達するスタッフには、より大きなトークン予算の割り当てや、別モデルの活用アドバイスを行う。
「スキル」によるエージェントの行動制限
モデル選択以外のコスト管理手段として、ChatGPTやClaudeの「スキル(Skills)」機能を使う方法も紹介されている。特定のドキュメントや手順シーケンスを保存してエージェントに強制的に使わせることで、エージェントが独自の行動を取る余地を狭める仕組みだ。
PMGはこの機能を活用し、エージェントが「レールを外れない」よう設計段階でベストプラクティスを組み込んでいると、コンサルティング&ストラテジーディレクターのDillon Larberg氏は語る。
Larberg氏のコメントがこの問題の本質をよく表している。「私は18輪トレーラーで通勤しないし、ハイブリッド車で大陸横断もしない。」つまり、タスクに見合ったモデルを選ぶことが、コスト管理の基本だというわけだ。
代理店が自社開発に踏み切った本質的な理由と今後
記事全体を通じて浮かび上がるのは、代理店が監査ツールを自社開発せざるを得なかった理由だ。AIエージェントの行動を外部のプラットフォーム任せにしておくと、クライアントへの説明責任を果たせない。「AIがやった」は免責理由にならず、担当人間が説明責任を負う構造を技術的に担保することが、代理店各社の喫緊の課題となっているからだ。
各社が開発・導入を進めているツール群は現時点ではまだ荒削りで、トークンコストの精算や複数エージェント間の横断的な監査には対応しきれていない部分も多い。今後は、こうした自社ツールの精度向上と同時に、PubMaticのような外部プラットフォームが監査機能を標準提供する動きも加速するとみられる。代理店側としては、外部ツールの活用と自社ノウハウの蓄積をいかに組み合わせるかが、次のフェーズの競争軸になるだろう。
詳細はMedia agencies build audit tools to prevent AI agents from overchargingを参照していただきたい。