9月4日、Futurismが「American Medical Association Fires Back Against Paper Finding AI Is Now Outperforming Doctors」と題した記事を公開した。AIが医師を超えつつあると主張したJAMA掲載論文に対し、米国医師会(AMA)のCEOが反論した医療AI論争について詳しく紹介している。
「AIは医師より優秀」――JAMA掲載論文の主張
著名な生命倫理学者Ezekiel EmanuelとベンチャーキャピタリストのVinod Khoslaが共著した論文が、今月JAMA(Journal of the American Medical Association)に掲載された。JAMAは世界で最も引用される医学誌の一つであり、その査読水準の高さから掲載自体が大きな権威を持つ。それだけに、今回の論文が投じた波紋は医療界で広く波及している。
数百件の医療AI研究をレビューした結果として、論文は以下を主張している。
- AIはすでに医療の補助ツールとして不可欠な存在である
- 患者からの情報収集、診断・検査、慢性疾患の管理など5つの基本的な医療タスクで、AIは医師を超えている
- 「AI単独の医療ケアは、医師のみ、あるいは医師+AIのハイブリッドより優れる可能性が高い」
さらに踏み込んで、「人間が介在することでAI単独よりもパフォーマンスが低下する」とも述べており、「AIが進歩するにつれ、ループに人間を入れることが患者ケアを悪化させる」と結論づけている。
Emanuelはこれまでも医療制度改革について積極的に発言してきた論客であり、Khoslaもシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストとして「AIが医師を代替する」という持論を公言してきた人物だ。今回の論文は、そうした両者の立場が反映された、従来より踏み込んだ主張として受け止められている。Emanuel自身はWiredの取材に対し、「4年後の予測をしている。AIが医師よりはるかに高度になっていないと思うか?」と語っている。
AMAが「待った」をかける理由
この論文に真っ向から反論したのが、AMA(米国医師会)CEO、John Whyteだ。AMAは米国最大規模の医師職能団体であり、医療政策や医学教育の標準設定にも大きな影響力を持つ。Wiredの報道によると、Whyteが指摘する問題点は主に2点ある。
- 論文が引用した研究の一部は、シミュレーションベースであり、医学研究の基準とされるブラインド実験(二重盲検)ではない
- 著者の結論と矛盾する研究も含まれている。たとえば、今年2月のNature誌の論文では、多くの患者がAIチャットボットから必要な医療情報を引き出すことに苦労していた
「AMAはこれらのツールの可能性を認める。しかし、医師が主導するケアプランの中で活用されるべきだ」とWhyteは述べた。
「AIによるスキル低下」は現実に起きている
論文の指摘の一部には根拠もある。AIへの依存による医療従事者のスキル低下(AI-deskilling)は、すでに現場で問題視されている。シニア医師らは、医学生がAIツールに過度に依存していると警告している。
ただし、依存しているのは学生だけではない。臨床医向けAIチャットボット「OpenEvidence」の内部データによれば、米国の医師の約3分の2がこのツールを使用しているという。
先週には、英国の脳神経外科チームが、脳腫瘍の摘出手術にAIナビゲーションツールを使用したことを発表した。医療AIの実用化が日々進んでいるのは事実だ。
「ドアマンの誤謬」――人間の医師は残り続けるか
UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の医学部長でEmanuelの旧友でもあるRobert Wachterは、「今は人間とAIの協働が望ましい」としつつも、将来的には「人間がパフォーマンスを損なう場面も出てくる」と認めた。
その一方でWachterは、医師の完全自動化を「ドアマンの誤謬」と表現して否定した。これはWachter自身がFuturismの取材の文脈で用いた言い回しであり、自動ドアが普及してもドアマンという職業が消えなかったように、高度な訓練を積んだ医師も単純に代替されることはない、という主張だ。ただし、その比喩が医師存続の根拠として十分かどうかは、受け取り手によって評価が分かれるだろう。
過去の「AI万能論」には前例がある
高揚感あふれるAI主張が後から覆されるケースは珍しくない。教育分野では、「ChatGPTが学習成果に大きなプラスの影響を与える」と結論づけた注目研究が、出版社のSpringer Natureによって解析上の重大な不一致が発見され、2024年に撤回されている。この撤回劇は、AIの効果を誇大に示す研究の再現性・方法論に対する懸念を改めて浮き彫りにした。今回の医療AI論文も、その文脈で慎重に受け取る必要がある。
詳細はAmerican Medical Association Fires Back Against Paper Finding AI Is Now Outperforming Doctorsを参照していただきたい。