9月5日、The Next Webが「Google brings its Lyria 3.5 music model to every Gemini user」と題した記事を公開した。Deezerへの新規アップロードの半数以上がAI生成となり、不正ストリーム再生が**最大85%**に達するなど、AI音楽が市場を急速に塗り替えている。ミュンヘン地裁がSunoへの差止命令で米国内での複製行為にまで管轄権を主張するなか、Googleはそうした法的リスクを織り込んだガードレールをAPIレベルで実装した上で、AI音楽生成モデル「Lyria 3.5」を全Geminiユーザーに開放した。
Lyria 3.5、全Geminiユーザーへ開放
GoogleはAI音楽生成モデル「Lyria 3.5」をGeminiアプリおよびGemini APIに統合した。Web・モバイルを問わず、世界中の全Geminiユーザーが利用できる。
モデルはテキストまたは画像プロンプトから、バース・コーラス・ブリッジを含むフルトラックを生成する。7月29日にGoogle Flow Musicで先行公開されており、Google AI StudioおよびGoogle Vidsでも動作する。
APIドキュメントによれば、技術仕様は以下のとおりだ。
- 出力フォーマット:44.1kHz ステレオ
- 画像入力:最大10枚まで指定可能
- 歌詞:セクションタグを使って独自の歌詞を記述可能
- タイムスタンプ:楽器の入るタイミングを指定可能
利用可能なモデルは2種類ある。「Lyria 3 Clip」は常に30秒のクリップを生成する軽量モデルであり、「Lyria 3.5」は数分のフルトラックを生成するモデルだ。両者は用途・出力長が異なる別モデルとして提供されており、Lyria 3 ClipはLyria 3.5のサブセットではない。
なお、生成はシングルターン(一発生成)のみ対応しており、プロンプトをまたいだ継続編集や対話的な修正には現時点で対応していない。クリエイターがプロンプトを試行錯誤しながら楽曲を磨いていくような使い方はできないため、ユーザー体験上の重要な制約として把握しておく必要がある。
ガードレールとして、特定アーティストの声の生成と著作権で保護された歌詞の生成はフィルタリングによりブロックされる。
欧州の著作権判決と奇妙な一致
このガードレールが設けられた背景には、7月31日にミュンヘン地裁がAI音楽スタートアップ「Suno」に対して下した著作権侵害の判決がある。欧州初のAI音楽著作権判決だ。GoogleはLyriaの制限とこの訴訟との関連性を明言していないが、両者の内容は符合している。
裁判所の判断のポイントは3点ある。
- 「テキスト・データマイニング例外」の不適用:学習データが記憶・再現可能な形でドイツ国内のサーバ上のモデルに保存されていたとして、EU著作権指令の例外規定は適用されないと判断した。
- ユーザーへの責任転嫁を否定:複雑なプロンプト操作があっても、出力物の著作権責任はSuno自身にあると判示した。
- EU域外のトレーニングにも管轄権を主張:さらに踏み込んで、EU域外で行われたトレーニングにも管轄権があるとし、米国のフェアユース法理を独自に分析した上で適用されないと結論づけた。
差止命令は、対象楽曲を使ったトレーニング、モデルパラメータへの保持、ドイツ国内でのモデル提供を対象とし、米国内での複製行為にまで及ぶ文言が含まれる。一欧州の裁判所が米国内の行為に差止めを求めるという射程の広さは、AI開発全体に対する潜在的なリスクとして業界の注目を集めている。ただし判決は確定しておらず、控訴可能な状態だ。
AI音楽が「氾濫」するストリーミング市場
Lyriaが参入する市場はすでに飽和状態にある。Deezerへの新規アップロードの半数以上がAI生成であり、毎日約9万トラックのフルAI楽曲が追加されている。しかし実際のリスニングに占める割合は1〜3%に留まり、2025年に入ってからそれらが生み出したストリーム再生の最大85%が不正だったとされる。Deezerはこの問題に積極的に対処しているが、Spotifyは動いていない。
GoogleはLyriaの全トラックに「SynthID」と呼ばれる電子透かしを埋め込んでいる。SynthIDは音声波形そのものにデータを埋め込む仕組みで、人間の耳には知覚できず、かつ再エンコードや音量変更といった一般的な加工を施しても除去が困難な設計となっている。Sunoも訴訟が始まったタイミングで電子透かしの導入に動いており、AI音楽の出自証明はプラットフォームを問わず共通課題になりつつある。
まとめ
今回の動きで整理しておくべき構図はシンプルだ。Googleは機能を開放しながら、法的リスクを意識したガードレールをAPIレベルで実装している。一方でミュンヘン判決は、EU域外のトレーニングにまで管轄権を及ぼそうとする前例を作りかけており、AI音楽生成全体に波及する可能性がある。判決は控訴中であり、決着はまだ先だ。
開発者にとっては、Gemini APIを通じてプロダクトへの音楽生成機能の組み込みが現実的な選択肢となった一方で、シングルターン制約やガードレールの仕様がユースケースに合致するかを事前に精査する必要がある。クリエイターにとっては、SynthIDによる出自追跡が常時機能していることを前提に、生成物の利用範囲を検討すべきだろう。AIと音楽著作権をめぐる法的・市場的環境は、まだ大きく動く余地を残している。
詳細はGoogle brings its Lyria 3.5 music model to every Gemini userを参照していただきたい。