9月5日、Reasonが「DOJ says barring AI training on copyrighted material could 'severely hamper' tech progress」と題した記事を公開した。米司法省(DOJ)がAIモデルの著作権素材を用いた学習を「フェアユース(公正利用)」に該当するとの立場を示し、制限すれば技術進歩を「著しく阻害する」と主張したという内容だ。なお、訴訟を起こしたニューヨーク・タイムズ(NYT)自身が社内で生成AIを積極活用しているという逆説的な事実も記事は指摘しており、この問題の複雑さを象徴している。
訴訟当事者のNYT自身もAIを活用している
皮肉な点として記事が指摘しているのは、訴訟を起こしたNYT自身が自社ニュースルームで生成AIを積極活用している事実だ。Semaforの報道によると、NYTは社内向けメッセージで、生成AIが「音声読み上げ」「多言語翻訳」を通じてより多くの読者にリーチする助けになると説明しており、「従来では取材できなかったストーリーを報道するのに役立つ」とも述べている。
記事は、生成AIモデルが独自の取材・情報収集・情報源へのアクセスを行えないことも踏まえ、NYT自身の公式ガイドラインが「これらは単なる強力なツールに過ぎない」と認めていると指摘する。AI恩恵を享受しながらその学習データを巡る権利を争うという構図は、この訴訟の核心にある緊張関係を端的に示している。
DOJが「AIの著作権学習はフェアユース」と表明
米司法省が、ニューヨーク・タイムズ(NYT)対OpenAI・Microsoft訴訟に意見書を提出した。その立場は明確で、著作権素材でのAI学習を規制することは「科学と有用な技術の進歩」を「著しく阻害しかねない」というものだ。
この訴訟の発端は2023年にさかのぼる。NYTはOpenAIとその最大出資者であるMicrosoftを「組織的かつ競争を歪める著作権侵害」として提訴した。その後、他の出版社も追随して訴訟を起こし、ニューヨーク南部地区連邦地裁に集約されている。
DOJが今回の意見書で依拠したのは、**1976年著作権法第107条**のフェアユース規定だ。同条項は、批評・コメント・報道・教育・学術・研究目的での未許諾著作物の利用を認めている。DOJは、AIによる著作権素材の学習は「変革的目的(transformative purpose)」でのフェアユースに該当するとし、「学習行為それ自体は著作権侵害ではない」と主張する。
フェアユースの判断は一般に、①利用の目的と性質(商業的か非営利教育的か)、②著作物の性質、③利用される部分の量と実質性、④原著作物の市場への影響、という4つの要素を総合的に勘案して行われる。DOJはこの枠組みのなかでAI学習が「変革的」であると論じているが、特に④の「市場への影響」をめぐってNYT側と真っ向から対立している。
NYT側の反論と、各専門家の見方
NYTは「変革的利用」という主張を真っ向から否定している。同社の立場は、対価を支払わずに自社コンテンツを使い、自社の代替製品を作り上げるのは変革的でも何でもないというものだ。OpenAIの生成AIモデルは学習素材を「競合し、かつ酷似した形で模倣する」として、フェアユース適用の余地はないと主張する。
NYTのスポークスマン、グラハム・ジェームズ氏は、政府が「数兆ドル規模のAI企業の肩を持ち、米国のクリエイターを犠牲にしている」と批判した。
一方、専門家の見方は割れている。
電子フロンティア財団(EFF)のスタッフ弁護士、トリ・ノーブル氏は、著作権素材でのAI学習は「変革的利用の典型例だ」と言い切る。AIは「汎用ツール」であり、「著作権が育成を意図した創作物そのものだ」とも述べた。
ジョージメイソン大学マーカタスセンターのサティア・マラール研究員はReasonの取材に対し、「生成AI学習に対する一律のフェアユース例外は存在しないが、学習行為それ自体は変革的とみなされる可能性が高い」との見解を示した。
規制された場合の産業インパクト
同センターのネイサン・グッドマン上席研究員は、もしNYT側が勝訴した場合、訓練データセット構築の直接コストと取引コストの両方が大幅に上昇すると予測する。特に問題となるのは中小の開発者だ。
ノーブル氏は、大手企業ならともかく、小規模開発者にとっては著作権者一件一件に個別に許諾を求めることは現実的でなく、数十億ドル規模のライセンス費用は事実上の参入障壁になると指摘する。こうした状況は「既存知識の上に積み重ねるイテレーティブなイノベーション」を阻害しかねないとグッドマン氏は述べた。
今後の焦点
ノーブル氏は、裁判所が技術を誤解し、その誤解やAIへの否定的な印象が、実態ではなく誇張や偏見に基づいた判決を生み出すリスクがあると警告する。前述のフェアユース4要素のうち、特に「変革性」と「市場への影響」の解釈次第で判決の方向性は大きく変わりうる。裁判官がAIの技術的実態をどこまで正確に把握したうえで判断を下せるかが、判決の質を左右する重要な要素となる。
グッドマン氏はこの裁判の結果がどうなるにせよ、判決は「社会における創造的・革新的活動を再形成し、どのようなイノベーションと創造性のパターンが生まれるかを変える」と述べた。NYT対OpenAI訴訟をはじめ複数の著作権訴訟がAI企業に対して係属している現在、政府がこの問題に関与するのは今回が最後ではないだろう。
詳細はDOJ says barring AI training on copyrighted material could 'severely hamper' tech progressを参照していただきたい。