9月5日、TFTC.ioが「DeepSeek Orders 160,000 Huawei Chips, Proving U.S. Sanctions Backfired」と題した記事を公開した。Bernstein Researchの推計によればNVIDIAの中国AIチップシェアが2025年の約40%から2026年には約8%まで低下する見通しとされており、米国の輸出規制が意図した目標とは逆の結果をもたらしている可能性について詳しく論じている。
DeepSeekが16万枚のHuawei製チップを発注
Bloombergの2026年9月4日付報道によると、DeepSeekは内モンゴル自治区ウランチャブ(Ulanqab)に建設予定の大規模データセンター向けに、Huawei Ascend 950DTチップを少なくとも16万枚発注した。
このデータセンターはフル稼働時に1GW(ギガワット)の電力容量を想定しており、チップは推論(Inference)専用に使用される。注目すべき点は、DeepSeekがトレーニングには依然としてNVIDIA製ハードウェアを使用しているということだ。AIスタックのうち、エンドユーザーが実際に触れる「推論レイヤー」が、米国製シリコンから切り離される格好になる。
Ascend 950DTのスペックはHBMメモリ144GB、メモリ帯域幅4.0TB/s。現在の市場価格は1枚あたり約11万1,000元(約1万6,000ドル)で、今回の発注総額は中国国産AIアクセラレータへの単一コミットメントとして過去最大規模の一つとなる。ただし、Huawei側のAscend 950DT生産能力は高帯域幅メモリ(HBM)の供給不足により年間数十万枚規模に制約されており、Bloombergは納入に1年以上かかる可能性があると伝えている。DeepSeekはすでに北京当局にHuawei側への優先割り当てを働きかけているという。
NVIDIAのCEOが「市場喪失」を認めた
NVIDIA CEOのJensen Huangは2026年5月21日にCNBCに対し、NVIDIAが中国のAIチップ市場をHuaweiに「事実上明け渡した(largely conceded)」と述べた。「Huaweiは非常に、非常に強い」という言葉は、2年前の輸出規制強化時には誰も予想しなかった展開だ。
Bernstein Researchの推計では、NVIDIAの中国AIチップシェアは2025年の約40%から2026年には約8%まで低下する見通しとされており、Huaweiは同期間に約50%のシェアを獲得する見込みだという。なお、この推計はあくまで将来予測であり、実績値として確定したものではない点に留意が必要だ。HuaweiのAIチップ売上高は2025年に75億ドルを記録し、2026年には約120億ドルに達すると予測されている。
Sphere Semi CEOのSteven Glinert氏はX(旧Twitter)への投稿で「中国の国内市場はHuawei対比では失われた市場と見られており、NVIDIAはそこへ販売し続けることにさほどコミットしていない」とコメントしている。
制裁が「加速剤」になった構造的逆説
米国の輸出規制戦略が前提としていたのは、「先端半導体へのアクセスを断てば、中国のAIラボは米国製シリコンへの依存を続け、フロンティアAI開発が鈍化する」というロジックだった。今回のDeepSeekの発注は、その前提が機能していない可能性を示す事例として注目されている。ただし、制裁の効果については専門家の間でも評価が分かれており、「規制がなければ中国の国産化はさらに遅れていた」という反論も存在する。
Bloombergによると、DeepSeekは以前にHuawei製チップでのモデルトレーニングを試みたものの、分散トレーニングに必要なソフトウェアスタックとインターコネクト(チップ間通信)アーキテクチャが未熟だったため、NVIDIAに戻った経緯がある。つまり現状は「推論はHuawei、トレーニングはNVIDIA」という分断した依存関係が残っている。
残る焦点はトレーニングの依存関係が閉じるかどうかだ。中国のAIラボが国産シリコンでフロンティアモデルのトレーニングを実現すれば、「デカップリング(技術的切り離し)」の仮説が完成する。記事は「今後18ヶ月以内にそれが起きるかどうかが、見るべきシグナルだ」と指摘している。
エネルギーと地政学への波及
ウランチャブのデータセンターサイトは、安価な再生可能エネルギーと冷涼な気候を目的に選定されている。内モンゴルの低気温は冷却コストを大幅に下げ、同地域の風力・太陽光発電との近接性が電力コストを抑える。
米国主導の輸出規制が想定していたのは「一つのAIインフラ」の分断だった。しかし実際に起きているのは、NVIDIAを軸とする西側と、Huawei Ascendを軸とする中国という、二つの独立したインフラ整備が同時並行で走る世界だ。これはグローバルな設備投資(capex)と電力需要を減らすのではなく、むしろ増やす方向に働く。
今後の注目点
記事が「watch」すべき点として挙げているのは二つだ。一つは北京がHuawei側への優先供給を国家的優先事項として扱うかどうか。もう一つはDeepSeekの次のモデルリリースがHuawei製ハードウェアでトレーニングされているかどうかだ。後者が確認された時点で、デカップリングの「最後のギャップ」が閉じることになる。
日本企業の視点からも、この動向は無視できない。HuaweiのAscendエコシステムが自立性を高めれば、中国市場向けにAIインフラやソフトウェアを提供している日本のSIer・クラウドベンダーは、NVIDIAベースの技術スタックとは異なる対応を迫られる可能性がある。また、半導体製造装置や素材を供給する日本企業にとっては、中国国産チップの生産拡大が新たな需要として浮上する一方、輸出規制の余波に巻き込まれるリスクも引き続き残る。
※編集部の考察:今回のDeepSeekの発注規模や、Jensen Huang自身による「市場喪失」の明言は、輸出規制の効果をめぐる議論に新たな材料を加えるものだ。ただし「規制が国産化を加速させた」という因果関係の断定には慎重であるべきで、規制がなかった場合のシナリオは検証不可能な反事実命題でもある。引き続き実際のトレーニング依存関係の変化を追うことが、最も信頼性の高い判断材料となるだろう。
詳細はDeepSeek Orders 160,000 Huawei Chips, Proving U.S. Sanctions Backfiredを参照していただきたい。