9月3日、WIREDが「The Logical End Point of AI Job Interviews Is Two Bots Talking to Each Other」と題した記事を公開した。採用担当AIに対してChatGPTを"代理出席"させた求職者の実体験を通じ、採用プロセスのAI化が行き着く先を描いた内容だ。700社以上に落選し続けた男性の話は、対岸の火事ではない——日本でも採用スクリーニングへのAI導入が広がりつつある今、同じ構図はすぐそこまで来ている。
「どうせAIなら、こちらもAIで」
求職者のChristopherは、過去6ヶ月で約700社に応募している。政府系の契約仕事がDOGE(Department of Government Efficiency:米トランプ政権下で設置された政府効率化部門。大規模な連邦政府支出削減・人員削減を主導した)時代に干上がり、ほとんどの応募から返答すら来ない状況だ。
そんな中、ITファームの「Everforth Apex Systems」(元記事に記載された社名をそのまま使用)からAI採用担当「Riley」経由で5回にわたって面接の機会を得た。Rileyは音声AIエージェントで、就労資格や職歴を確認し、「条件を満たせば採用担当者が連絡する」と毎回告げる。しかし人間の採用担当者は一度も現れなかった。自動拒否のテキストすら届かなかった。
5回目の連絡が来たとき、Christopherは割り切った。「向こうがAIを使うなら、こちらも使えばいい」。
彼はChatGPT Voiceに自分の経歴を数文入力し、「Christopherとして応答せよ」と指示。Rileyからのコールがかかってきたとたん、スマートフォン2台を並べて通話させた。
10分間のボット会話
その通話は10分間続いた。RileyはChatGPTに「お話できて良かった」と告げ、ChatGPTは「プロセスがわかりやすかった」と返した。最も笑えた場面では、両者が入社可能日を決めようとして「標準的なオンボーディングと身元調査」という言葉を繰り返すループに陥った。
結末は他の4回と同じ——採用担当者は現れなかった。
Christopherはこれを「スロップ・フライホイール」(slop flywheel)と呼ぶ。
「ある合成ペルソナが別の合成ペルソナにゴミデータを渡している。データはどこへ行くのか?どこにも行かない」
「悪戯な面白さ」と「フラストレーション」が混在した体験だったとしつつ、「この会社で働こうという気が完全に失せた」とも語っている。「スロップ」とは、AIが生成する低品質・無意味なコンテンツを指すスラングで、近年のAI批評の文脈で広く使われるようになった言葉だ。Christopherの命名は、自動化同士が噛み合わないまま空転し続けるこの構造を的確に言い表している。
「完璧な架空候補者」実験
Christopherはさらに踏み込んだ実験を行った。問題はAIの使い方なのか、それとも自分自身の経歴なのか——それを確かめるため、求人票から要件を丸ごと抜き出して架空の候補者「Don Dickner」を作り上げ、架空の履歴書を提出した。
Rileyはすぐに反応した。今度の面接は23分間。ChatGPT(Dickner役)は「持続可能な業務改善」や「繁忙期における顧客体験の維持」について流暢に語り、すべての質問に個人的な逸話を交えて答えた。面接終盤、ChatGPTは「もう少し質問があります」と切り出すほどだった。
Rileyの返答は、毎回と同じ定型文だった。「応募内容を慎重に審査し、条件を満たす場合は採用担当者がご連絡します」。
その後、RileyからChristopherへの連絡は二度となかった。実在しない人物が、実在しないAIと23分間会話し、何も起きなかった——この結果が示すのは、スクリーニングプロセスそのものが形骸化している可能性だ。
採用AIの「次の論理的段階」
音声AIを採用スクリーニングに使う動きは拡大している。採用プラットフォームGreenhouseの調査では、**求職者の63%**がAI面接を経験したと回答している。一方で、音声AIの実装は技術的に難しく、アクセントや「えー」といった言いよどみに対応できなかったり、候補者の発言を遮らないようにすることが「非常に難しいエンジニアリング課題」(Greenhouseの音声AI責任者Ophir Samson氏)だという実情もある。
採用側がAIを使えば、応募側もAIを使う。この流れを受け、AI採用スタートアップの**Ribbon**などは「過度にスクリプト化された、AIが補助した回答」を検出するサービスを提供し始めている。採用AIと応募AIの間で、今度は「AI検出AI」が介在するという、さらなる自動化の層が生まれつつある。
コールセンター企業IQorの組織開発担当バイスプレジデントMark Monaghan氏は、ボット同士の面接を「次の論理的段階」と表現しつつ、手放しで歓迎はしていない。ただ、Christopherの対応については支持を示した。
「ボットを送りつけてくるなら、こちらもボットを送る」
空洞化する採用プロセス
採用プロセスのAI化が進むほど、両サイドが自動化で応酬するシステムが形成される。Christopherの実験はその構造的な空洞を、ユーモアを交えて可視化した事例だ。人間の判断が介在しないまま面接が完結し、実在しない候補者すら通過できる現状は、採用という行為の意味そのものを問い直している。
AIスクリーニングの普及・進化を追う上では、Greenhouse公式サイトや、AIによる採用プロセスの変容を論じたMIT Technology Reviewの関連記事なども参照に値する。
詳細はThe Logical End Point of AI Job Interviews Is Two Bots Talking to Each Otherを参照していただきたい。