9月3日、The Decoderが「US Department of Justice backs fair use for AI training in landmark copyright case」と題した記事を公開した。注目すべきは、米司法省(DOJ)が米著作権局(US Copyright Office)の公式レポートを真っ向から否定する立場を取ったという点だ。AI学習における著作権のフェアユース(公正利用)をめぐる議論は政府機関内部でも対立しており、裁判所の最終判断に向けて局面が大きく動き始めている。
米司法省、AI学習はフェアユースと主張
DOJは、ニューヨーク・タイムズ(NYT)とOpenAI・Microsoftの著作権訴訟に対する見解を文書で提出し、LLM(大規模言語モデル)の学習に著作権保護されたコンテンツを使用することは著作権侵害にあたらないと主張した。
この訴訟は2023年末にNYTがOpenAIとMicrosoftをマンハッタン連邦裁判所に提訴したもので、GPT-4などのモデル学習にNYTの記事が無断使用されたとして数十億ドルの損害賠償と、学習済みモデルの破棄を求めている。AIと著作権の問題を巡る今後の判断に大きく影響するとして、業界から注目を集めている。
「学習」と「出力」を切り分ける論理
DOJの主張の核心は、学習フェーズと出力フェーズを法的に区別すべきという点にある。
学習中は著作物全体がコピーされるものの、それは一般公開されることはなく、モデルの出力は「多くの場合、元の著作物と実質的な類似性を持たない」とDOJは述べている。学習と出力を一括りに「市場への損害」と見なす理論は法的に誤りだという立場だ。
DOJの文書中では、作家ジョアン・ディディオン(Joan Didion)を用いた比喩が登場する。若い頃のディディオンは、ヘミングウェイの文体を学ぶためにその作品を書き写したとされる。DOJはこれを引き合いに出し、「その論理で言えば、ディディオンは後に作品を発表するたびに著作権侵害の責任を問われることになる」と指摘し、書籍から学んで新たな表現で何かを書くたびに対価を払う義務を課すことは「考えられない」と主張している。
著作権局レポートを真っ向から否定
今回のDOJ文書が特に重要なのは、米著作権局(US Copyright Office)の報告書を直接批判している点だ。
著作権局はかつて、AIが完璧なコピーを扱い、人間の創作をはるかに超える規模とスピードでコンテンツを生成することを理由に、AI学習に対するフェアユースの一括適用を否定する報告書を公表していた。商業利用が既存市場で元の著作物と競合する場合、フェアユースの範囲を超えるという立場だった。
DOJはこれに対し、元著作権局長シラ・パールマッター(Shira Perlmutter)の評価は法的拘束力を持たず、報告書は「事例ごとの分析」に関する判例法を無視していると反論している。
「フェアユースの判断は、各ケースの具体的な事実と使用状況にかかっている。しかし、ライセンスなしにAIモデルの学習を一般的に認めないような広範な著作権責任を課すことは問題であり、法的にも誤りだ」とDOJは述べている。
なお、パールマッター前局長はこの報告書公表直後にトランプ政権によって解雇されている。民主党のジョー・モレル議員は「AI学習の正当化を拒否したことが解雇理由だ」と述べており、政権がAI産業寄りの著作権解釈を推し進めようとしているとの見方も出ている。著作権局長は大統領が任命する議会図書館長の監督下に置かれるポジションであり、行政府の意向が政策に影響しやすい構造にある点は、日本の読者にとって補足が必要な背景だ。DOJの文書の脚注には、パールマッター氏が現在この解雇に対して異議申し立て中であることが記載されている。
※編集部の考察:DOJが著作権局の公式報告書を否定するという構図は、米国行政府内でのAI政策をめぐる対立を浮き彫りにしており、司法判断とは独立した政治的文脈としても注視が必要だ。
スケールの問題は残る
ただし、DOJの議論が回避している論点もある。スケールの問題だ。
一人の著者が学習のためにテキストをコピーすることと、数十億ドル規模の企業がそのコンテンツを大量の商業製品に転換することは性質が異なる。この点は著作権局も明示しており、現在の法廷での議論でも争点となり続けている。
また、ドイツではAIによる音楽生成サービスSunoが著作権侵害と認定された事例もあり、フェアユースの解釈が国・事案によって大きく異なることも背景にある。
今回のDOJの立場表明はAI業界にとって追い風となるが、裁判所が最終的にどう判断するかは今後の展開次第だ。
詳細はUS Department of Justice backs fair use for AI training in landmark copyright caseを参照していただきたい。