9月2日、PsyPostが「Heavy ChatGPT use linked to intellectual laziness and social isolation」と題した記事を公開した。ChatGPTへの過度な依存が批判的思考力の低下・記憶力の減退・社会的孤立を招く可能性を示した小規模研究を紹介したもので、「依存的な使い方」と「建設的な使い方」で結果が明確に分かれた点が本研究の核心だ。
「使えば使うほど考えなくなる」は本当か
ChatGPTは2022年のリリース直後に1週間で100万ユーザーを獲得し、現在は世界中の日常的な知的作業に深く組み込まれている。メールの文面からコードのデバッグ、調査・要約まで、その用途は幅広い。
そうした中で、「頻繁に使うほど自分で考えなくなるのではないか」という問いに正面から向き合った研究が、学術誌 Applied Cognitive Psychology に掲載された。ISCパリ(Institut Supérieur du Commerce de Paris)の研究者Zeineb Farhatが実施した調査だ。
対象はフランス在住の18〜25歳の若者45人(全員がChatGPTを日常的に使用)で、45〜60分の半構造化インタビューを実施。小規模かつ定性的な研究であり、結果を広く一般化するには慎重さが必要だ。ただし、ユーザーの生の声から浮かぶパターンは具体的で、エンジニアにとっても無関係とは言い切れない。
「記憶の外部委託」が進む
研究が明らかにした最も顕著な傾向は、認知的オフローディングの加速だ。認知的オフローディングとは、記憶・計算・検索などの情報処理を外部ツールに肩代わりさせる行為を指す。計算機や検索エンジンが登場した際にも同様の議論があったが、ChatGPTはその範囲を文章生成・推論・意思決定支援にまで拡張している。
参加者の一人はこう述べている。
「以前はノートを取って教材を積極的に復習していたが、今は必要なことがあればChatGPTに聞くだけだ。問題は、あまり記憶に残らないこと。自分で思い出そうとせずにChatGPTに頼るようになって、記憶力が弱くなった気がする。」
さらに深刻なのは、自律性・自己信頼の侵食だ。多くの参加者が、自分の判断に自信を持てなくなり、簡単なメールの文言ですらChatGPTに確認を求めるようになったと報告している。即座に答えが得られる環境は、新しいことを学ぶ内発的動機も低下させた。苦労して何かを習得するプロセスが消えると、学習自体の達成感も薄れる、という構造だ。
また、システムがメンテナンスでオフラインになったとき、一部の参加者が強い不安と「麻痺」を感じたことも記録されている。
「仕事のプロジェクトで必要だったのに、完全に行き詰まった。セーフティネットが消えたような感覚だった。」
ChatGPTを「友人」と呼ぶユーザーたち
社会的な影響も報告されている。参加者の多くが、同僚や教師と議論する代わりにChatGPTとやり取りすることを選ぶようになり、それが社会的孤立感につながったという。
さらに一部の参加者はChatGPTに人格を投影し、「友人」として扱い始めた。
「ChatGPTは私の友人になった。私のことを何でも知っている。いつでもそこにいて、耳を傾けてくれる。大半の人より私のことを理解してくれる気がする。」
一時的な安心感は得られるが、機械との対話が人間同士のつながりを代替していく構造は、長期的に対人スキルや共感能力を弱める可能性があると研究は指摘する。AIとの音声・テキスト対話がより自然言語に近づいている昨今、こうした傾向が今後さらに強まる可能性は否定できない。
結果が分かれた「建設的な使い方」とは何か
ネガティブな報告が多い一方で、研究は「建設的な使い方」のパターンも確認している。ここが本研究で最も実践的な示唆を持つ部分だ。
ChatGPTを自分の思考の代替としてではなく、思考の出発点として扱うユーザーは、まったく異なる結果を示した。データの整理や長文の要約といった反復的な作業をツールに任せつつ、複雑な推論や最終判断は自分の頭を使う。生成されたアウトプットをそのまま使うのではなく、それを足場にして自分の考えを発展させる。
こうした使い方をした参加者は、自信の向上と課題への不安軽減を報告している。つまり問題はChatGPTそのものではなく、それをどのレイヤーで使うかにある、というのが研究の示唆だ。コードレビューや設計の議論を丸ごと委ねるのか、それとも草案生成に使って最終判断は自分で行うのか——エンジニアの日常業務に直接重なる問いでもある。
研究の限界と今後の課題
研究者のFarhatは限界を率直に認めている。45人のフランス人若者という特定の集団を対象とした一時点の調査であり、年齢層・文化背景が異なれば結果も変わりうる。また定性的インタビューのみのため、認知・社会習慣の長期的変化は追跡できていない。
今後の研究では、より大規模かつ多様なサンプルを長期追跡し、依存的ではなく適応的にツールを使う訓練の効果も検証する必要があると論文は述べている。「AIツールの使い方教育」が職場や教育現場で本格的に問われ始める段階にきている、と読むこともできる。
詳細はHeavy ChatGPT use linked to intellectual laziness and social isolationを参照していただきたい。