9月2日、Marius Blogが「Firefox's AI Switch Is Off. Telemetry Isn't.」と題した記事を公開した。FirefoxのAIキルスイッチをオフにしてもテレメトリも広告通信も止まらないという再検証結果を、詳細なパケット解析とともに示した内容だ。
とりわけ皮肉な発見がある。「Block AI Enhancements」を押した瞬間、そのユーザーは「AIをオフにしたユーザー」として記録され、MozillaのA/Bテスト基盤のターゲティングプロパティになる。「ブロックした事実」自体がデータポイントになる仕組みだ。
Mozillaは今年2月、翻訳・PDFのalt text生成・サイドバーチャットボット・スマートタブグループなどのAI機能を一括で無効化できる「AI Controls(AIコントロール)」という設定を導入した。プライバシーを重視するユーザーへの配慮として歓迎された機能だ。しかし著者は3月にFirefox 148で同じ検証を行い、スイッチがテレメトリを止めないことを示した記事がMozilla社内Slackで「hit piece(攻撃記事)」と呼ばれたと明かしている。今回はFirefox 155(2025年9月1日リリース)で再テストを実施し、半年間で状況が変わったかを確認した。
検証環境はMacBook Pro 2013モデルにUbuntu 24.04.3をクリーンインストールし、Firefox 155.0のDEBパッケージを使用。通信の可視化にはWireshark 4.2.2を使い、SSLKEYLOGFILE環境変数でTLS通信を復号している。デフォルト設定のプロファイル(Aシリーズ)と「Block AI Enhancements」を有効にしたプロファイル(Bシリーズ)を比較した。前回は初回起動時の一時的な通信とスイッチの効果を混同する余地があったとして、今回は両プロファイルともコールドスタートをスイッチ操作の前に実施するなど手順を改善している。
Firefox 155では、AIコントロールが設定するpreferenceが前回の9個から11個に増えた。browser.ai.control.smartWindow = "blocked"とextensions.ml.enabled = falseが追加されている。Mozillaの公式ドキュメントには「分類・ランキング・パーソナライゼーションのための従来型機械学習はこのスイッチの対象外」と明記されており、テレメトリや広告通信が対象外であることは公式見解として存在する。しかし多くのユーザーがその点を理解していなかったことが、前回記事への反響で浮き彫りになった。
肝心の検証結果を見ると、AIブロック直後の120秒アイドル計測で、デフォルト状態とブロック状態のTLS SNIホスト数はいずれも9ホストで変わらない。MozillaのテレメトリフレームワークであるGleanのPOSTリクエストは両状態ともincoming.telemetry.mozilla.orgへ14件送信され、ads.mozilla.orgへのプリフライトやads-img.mozilla.orgへの6回のTLSハンドシェイクも同様に発生した。ブロック済みプロファイルを再起動した後も、GleanクライアントID・レガシークライアントID・プロファイルグループIDといった永続的な識別子が前回と完全に一致しており、スイッチはIDをローテーションも削除もしない。今回は復号したHTTP/2・HTTP/3ストリームから37件のPOSTペイロードを完全に再構築しており、前回より証拠の質が高いとしている。
冒頭で触れたNimbusの件を詳しく見ると、MozillaのA/Bテスト基盤Nimbusはリモートからユーザーをセグメント分けしてフィーチャーフラグを配信する仕組みで、ブラウザの実験管理に広く使われている。ブロック済みプロファイルを再起動すると、Nimbusのターゲティングコンテキストpingにbrowser__ai__control__default = "blocked"と記録される。AIをオフにしようとした行為が、次の実験ターゲティングの判断材料として蓄積されていく。
この点は、Mozillaの新CEO Anthony Enzor-DeMeoの発言と直接絡んでくる。同氏は「AIを全オフにしたユーザーは約1%、個別機能をオフにしたのは約3%」と述べているが、その数字の根拠はスイッチが止めない同じテレメトリだ。Enzor-DeMeoは自身のエッセイ「Trust is earned. Consent is asked. AI skipped both.」で「Consent is asked(同意は求める)」と書いているが、著者はそれと矛盾する事実も示している。2つの新規プロファイルはいずれも初回起動から23〜24秒後にRemote Settingsコレクションai-window-promptsをリクエストしており、Bシリーズではその時点でユーザーはまだ初回起動ガイドの画面にいてスイッチにアクセスできない状態だった。AIに関連するサーバーへのリクエストが、ユーザーが選択肢を得る前に発生している。
Enzor-DeMeoのエッセイへのLinkedIn投稿にはプロダクトマネージャーのOlivia O'Haraがコメントし、Firefox新規インストール後のオンボーディングフローにAI機能の説明は一切なく、スイッチはハンバーガーメニュー→Settings→専用タブという3ステップの奥に埋まっていると指摘した。「1%という数字はスイッチが見つからないからかもしれない」という批判に対し、CEOは「Settings→AI Controls」でたどり着けると返答したが、それはO'Haraが「buried(埋もれている)」と評した経路そのものだ。
3月の検証からの変化を整理すると以下のようになる。
- AIコントロールが設定するpreferenceの数: 9個 → 11個(増加)
- 初回起動時のTLS接続先ホスト数: 25 → 14(減少)
- テレメトリ・広告通信・アフィリエイトDNS(Mozillaが検索などの収益連携先と行う名前解決通信)がスイッチ有効状態でも動き続ける点: 変わらず
設定の粒度は増えたものの、スイッチが「止めない」範囲の核心部分は半年経っても変わっていない。
詳細はFirefox's AI Switch Is Off. Telemetry Isn't.を参照していただきたい。