9月2日、AISLEが「AISLE Discovered Six curl CVEs After OpenAI and Anthropic Found Zero」と題した記事を公開した。OpenAIとAnthropicのAIセキュリティシステムが「ゼロ件」と報告したcurlのコードベースに対し、セキュリティ特化AIシステムを手がけるAISLEが6件のCVEを発見したという内容だ。
「世界で最も厳密にレビューされたコードベースの一つ」に、汎用モデルがすり抜けた脆弱性が残っていた。そしてその事実は、AISLEが自ら主張するのではなく、curlの創設者Daniel Stenbergが公開のMastodon投稿でタイムスタンプ付きで記録している。この構図が、今回の話を単なる自社PRで終わらせない理由だ。
AISLEとは何者か
AISLEは、ゼロデイ脆弱性の自律発見に特化したAIシステムを開発する企業だ。汎用LLMをそのままセキュリティ用途に転用するのではなく、「System over Model(モデル単体よりシステム設計が重要)」という思想のもと、脆弱性探索に最適化されたパイプラインを独自に構築している。具体的には、コードの到達可能性解析・メモリ安全性の静的追跡・ファジングとの組み合わせといったセキュリティ固有のタスクを、モデルへの問いかけではなくシステムレベルで処理する設計とされている。今回の結果は、その主張を裏付ける事例として位置づけられている。
「ゼロ」と「6件」——比較が成立した経緯
curlは世界200億以上のインスタンスに導入されている、スマート家電から宇宙船まで使われるHTTPクライアントライブラリだ。長年にわたって繰り返し監査されており、セキュリティ研究者の間では「最も厳密にレビューされたコードベースの一つ」として知られている。
2026年8月24日、curl創設者のDaniel StenbergはMastodonで、次期リリースに向けて保留中のCVEが3件あると報告した。同時に、AnthropicのMythosとOpenAIのCodex Securityという2つのフロンティアAIセキュリティシステムでcurlを解析した結果も公開している。
「Mythosはこれ以上見つけられないと言っている。……Codex Securityは空のリストを返した。」
さらにDanielが言及したZeropathも同様に成果を出せなかった。この「ゼロ件」という結果が公開・タイムスタンプ付きで記録された翌日、AISLEは自社システムをcurlに対して実行した。Danielはその結果を即座にフォロー投稿した。「Mythos: 0、Aisle: 29」。

29件の報告から6件がCVEに認定
AISLEが提出した29件のレポートのうち、curlのセキュリティチームがレビューした結果、6件が正式なCVEとして認定された。残る23件については、重複・誤検知・セキュリティ上の影響なしと判断されたものが含まれるとされるが、6件の認定数はそれ自体として意味がある——「ゼロ」との対比において、だ。
認定された6件はいずれも8月24日〜27日の数日間に報告されたもので、curl 8.22.0で修正済みだ。報告者としてAISLEのStanislav Fortがクレジットされている。
認定された6件は以下のとおりだ:
- CVE-2026-80229:OpenSSL providerのuse-after-free
- CVE-2026-80230:OpenSSLのpinningバイパス
- CVE-2026-80231:ネイティブCAストアの接続再利用
- CVE-2026-80255:タブ文字によるsecure属性バイパス
- CVE-2026-82208:wolfSSL CA-cacheヒットがコールバックを上書き
- CVE-2026-82209:ドメインスコープのpublic-suffixクッキー
深刻度はすべてLowだ。curlのセキュリティポリシーにおける「Low」は、悪用に特定の構成や前提条件が必要なケースを指す——致命的ではないが、放置してよい問題でもない。これはコードベースの成熟度を反映している。残存する脆弱性は限られた構成や微妙な相互作用に潜むものが多く、実際の影響範囲は狭い。それでも、長年の人力レビューとフロンティアモデル2つがすり抜けた問題を自動発見した事実の意味は小さくない。
8月28日時点で、curlの保留CVE件数は当初の3件から10件に増加しており、そのうち6件がAISLE由来だ。
この比較が「公正」である理由
通常のAIセキュリティ評価はCTF(Capture the Flag)形式のベンチマークや、すでにモデルの学習データに含まれている可能性のある既知の問題を使うことが多い。今回は構造が異なる。
- AISLEは現在稼働中のプロダクションコードを解析した
- ベースラインとなる「ゼロ件」という結果は、AISLEが解析を実行する前にDanielが公開・タイムスタンプ付きで投稿している
- CVEの認定はAISLE自身ではなく、curlのメンテナーが独立して判断した
この構造により、「AISLEが自社で評価した」という恣意性が排除されている。ベースラインの設定から認定判断まで、第三者が公開の場で行った点がポイントだ。
Linuxカーネルでも同じ傾向
この傾向はcurlにとどまらない可能性がある。Linuxの安定版リリースを長年メンテナンスしてきたGreg Kroah-Hartmanが、Danielの投稿に対して次のようにコメントしている。
「Linuxでも同じことが起きている。AISLEが何を違うやり方でやっているのかはわからないが、本当にすごい……」

「世界で最も審査されたコードベース」と「Linuxカーネル」の両方で同じパターンが観測されているとすれば、汎用フロンティアモデルとセキュリティ特化システムのアプローチの違いが、実世界の脆弱性発見において無視できない差を生み出している可能性がある。AIがセキュリティ分野で実用的な成果を出す時代に、「どのAIを使うか」ではなく「どう設計されたシステムを使うか」が問われ始めている。
詳細はAISLE Discovered Six curl CVEs After OpenAI and Anthropic Found Zeroを参照していただきたい。