9月1日、The Decoderが「Google's election AI Overviews are opaque, rely on few sources, and sometimes take sides」と題した記事を公開した。EUが大規模プラットフォームに義務付けた法的データ開示権を武器に、GoogleのAI Overviewsが選挙情報をどう扱っているかを実証的に"解剖"した調査だ。その結果、表示基準の不透明さ、情報源の偏り、政党描写の一貫性のなさという三つの問題が浮き彫りになった。
EUのDSA権限でGoogleの検索AIを"解剖"した調査
この調査を実施したのは、ドイツのデジタル権利団体AlgorithmWatchだ。EUの**デジタルサービス法(DSA)第40条12項**に基づく研究者向けデータアクセス権を活用し、GoogleのSearch Researcher Result APIへのアクセスを取得した。DSAは大規模プラットフォームに対して研究者へのデータ提供を義務付けており、これを活用した実証的な調査は今後も増えていくとみられる。
AlgorithmWatchは、2026年のドイツ州議会選挙に関する選挙関連クエリを合計4,480件実行し、表示されたAI Overviewsとその引用元を分析した。対象となった選挙・選挙区の詳細については元記事を参照されたい。
「いつ表示されるか」の基準が不明確
調査によれば、選挙関連の質問でAI Overviewsが表示されたのは**39.1%にとどまる。非政治的な質問では65.3%**で表示されており、意図的に抑制されている可能性が示唆される。
表示パターンにも一貫性がない。世論調査に関する質問ではほぼ表示されず、政党や個別政治家に関する質問では**40〜50%で表示された。一方、極右政党AFDに関する質問での表示率は24%と、他の政党(45〜58%**)より明らかに低かった。
Googleの広報担当者はAlgorithmWatchに対し、「AI検索機能は中立・客観的に設計されており、すべての検索で表示されるわけではない。付加価値が高いと判断した場合に表示される」と回答した。ただし、どのような基準で判断しているかについては答えなかった。
Googleは2024年に、米国やインドの選挙を念頭に、選挙関連の質問に対してGeminiによるAI生成回答をブロックすると発表していた。AlgorithmWatchはその措置が当時は効果的だったと評価しているが、2026年の選挙でも同様の制限が適用されているかはGoogleが回答しなかったため不明だ。
引用元の偏り:上位10ドメインで全体の半数近く
情報源の多様性にも問題が見られた。引用リンク全体の約半数が上位10ドメインに集中しており、最も多く引用されたのはGoogleが運営するYouTubeだった。AlgorithmWatchはこれをGoogleが自社サービスを優遇している証拠と解釈しているが、Googleはこれを否定している。
メディアではドイツ公共放送のNDR、rbb、MDR、ARDや、ニュースサイトのZeit Onlineが上位を占め、**6つのメディアサイトで全メディアリンクの75%**を占めた。Wikipediaや政府サイトに加え、政党の公式ページも引用されていたが、中立的な情報源と区別するラベルは付けられていなかった。
「実用的」「市民に寄り添う」——政党の自己宣伝に近い言葉が並ぶ
内容面での問題として、候補者や政党の政治的立場が「実用的(pragmatic)」「市民に近い(close to citizens)」「安定した(stable)」といった曖昧でポジティブな形容詞で描写されていた。これらは各政党が自己紹介で用いる表現と重なる。
ザクセン=アンハルト州のサンプルでは、中道右派CDUに関するAI Overviewsの81.5%が明らかにポジティブな評価だったのに対し、中道左派SPDは50%、緑の党は10.7%、AFDは0%だった。政党関連ドメインの引用割合が高い場合、よりポジティブな描写になる傾向があったが、全政党で均一ではなかった。
同一人物の描写がランダムに変わるケースも確認された。ザクセン=アンハルト州のAFD候補ウルリッヒ・ジークムントは、「極右・国家保守派の代表」「急進的な極右の立場を持つ人物」「右翼ポピュリスト」と、短期間のうちに異なる表現で描写されていた。AlgorithmWatchはこれらの矛盾したラベルの背後にパターンを見つけることができなかったと報告している。
事実誤認は少ないが、LLMの「お世辞傾向」が問題
以前の研究と比較して、明確な事実誤認は今回ほぼ見られなかった。AlgorithmWatchは、ポジティブな表現への偏りを言語モデルが持つ「迎合性(sycophancy)」に起因すると分析している。sycophancyとは、LLMがユーザーや情報源の意図・期待に沿うような回答を生成しやすい傾向を指す概念で、Anthropicの研究やOpenAIの安全性評価でも課題として取り上げられている。政党の公式サイトを引用源とする場合、その自己紹介的な表現をそのまま採用してしまうリスクは、sycophancyの一形態として理解できる。AlgorithmWatchはこの問題を踏まえ、透明性要件の整備と明確な責任ルールの策定を求めている。
詳細はGoogle's election AI Overviews are opaque, rely on few sources, and sometimes take sidesを参照していただきたい。