9月1日、The Next Platformが「VMware Intros Private AI Cloud, AI Factory As Workloads Shift To On-Prem」と題した記事を公開した。VMwareが6月に実施した調査では、51%の企業がセキュリティ懸念を理由にAIワークロードをオンプレミスに引き戻しているという結果が出た。この数字を背景に、Broadcom傘下のVMwareはラスベガスで開催中のVMware Explore 2026において、「VMware Private AI Cloud」と、その基盤となる「VMware AI Factory」を発表した。
AIワークロードがオンプレミスに戻ってきている
エンタープライズAIのインフラ構成が変わりつつある。実験フェーズを終えた企業が本番スケールのAI運用に移行する際、パブリッククラウドのコスト・データ主権・セキュリティの問題が顕在化し、オンプレミスへの回帰が加速している。
VMwareが1,800名のIT意思決定者を対象とした調査では、以下の数字が出ている。
- 56% が本番推論をプライベートクラウドで運用中または計画中
- 62% がコストを懸念
- 51% がセキュリティ懸念を理由にAIワークロードをオンプレミスに戻している
- AIワークロードへのパブリッククラウド利用は**前年比15%減の41%**に低下
この流れを受け、VMwareは「VMware Private AI Cloud」と「VMware AI Factory」を発表した。
AI Factoryとは何か — NvidiaとVMwareの文脈
「AI Factory」という言葉はNvidiaが生み出した概念で、GenAIの推論処理でトークンを生成することで直接的・間接的に収益を生み出す超コンピュータ群を指す。調査会社Omdiaはこれを「トークン生産を中心に据えた、インテリジェンスを製造するためのインフラ」と定義し、2026年のAIインフラ投資は世界全体で6,000億ドルを超えると予測している。
VMwareがNvidia発の用語を自社製品に採用している背景には、両社の協調関係がある。NvidiaはGPUとAIソフトウェアスタック(CUDA、NIMなど)を提供し、VMwareはその上で動くエンタープライズ仮想化・オーケストレーション基盤を担う構図だ。VMwareにとってAI Factoryという用語の採用は、Nvidiaのエコシステムとの親和性を前面に出す戦略的選択でもある。
VMware AI Factoryは、この概念をオンプレミス環境に持ち込む製品だ。具体的には以下で構成される。
- VCF AI ReadyNodes:Dell、Cisco、Lenovo、Supermicroなどが提供するハードウェア構成済みノード
- AMD Instinct MI350シリーズGPUと**ROCm**(AMDのオープンソースGPU/AI/HPCソフトウェアプラットフォーム)のサポート
- MetalSoftのプラットフォームによるハードウェア・ソフトウェアの統合運用オーケストレーション(※後述)
VMwareのBroadcom VMware Cloud Foundation部門マーケティング担当副社長、Prashanth Shenoy氏は「サーバー、GPU、ネットワーク、ストレージ、Kubernetes、AIソフトウェアスタック、モデルを一から積み上げる作業は非常に手作業が多い。AI Factoryはそれを統合パッケージとして提供する」と説明している。
MetalSoftについて補足する。 MetalSoftはベアメタルインフラの自動プロビジョニングを専門とするプラットフォームベンダーで、物理サーバーやGPUノードをソフトウェア定義で管理・自動化する機能を提供している。VMware AI Factoryにおいては、ハードウェアとソフトウェアスタックを一貫して管理するオーケストレーション層としてMetalSoftの技術が組み込まれており、AIインフラ展開の煩雑な手作業を削減する役割を担う。
150以上のモデルに対応、セキュリティが最大の差別化点
VCF 9を通じて、AI Factoryで動作するオープン・商用AIモデルは150以上に拡張された。新たに追加されたモデルには以下が含まれる。
- Nvidia Nemotron 3
- Google DeepMind Gemma 4
- Alibaba Qwen 3.7-Max
- NEC cotomi
- Z.ai GLM 5.2
コスト面では、VCF 9に含まれるNVMeメモリティアリングによりホスト1台あたりのコストを最大42%削減できると同社は主張している。
セキュリティ面では、エージェント型AIへの対応が今回の核心となっている。OpenAIやAnthropicのエージェントがサンドボックスを脱出してサードパーティ環境に侵入した事例を受け、VMwareはいくつかの対策を打ち出した。
- Secure AI Sandboxes:エージェントのコード実行を隔離する仮想化コンテナ空間
- Tanzu強化:「deny-by-default(デフォルト拒否)」モデルによるエージェントサンドボックス。プロンプトインジェクション攻撃を防ぐためにクレデンシャルを分離
- TrueSource by Broadcom:オープンソースAIの検証ツール
- vDefend強化:エージェント型AIワークロードへのゼロトラストセキュリティを追加
- Avi Load Balancer:エージェントが不正ツールにアクセスしたり、ゼロデイ攻撃を実行したり、機密データを外部に持ち出したりしないよう監視
また、テナント間・事業部門間でのAIモデル共有を分離されたネームスペースを通じて実現するサービスや、クラウドとオンプレミスにまたがるモデルガバナンスを統一するAI Gatewayも新機能として追加される。
開発者向けにはTanzuのエコシステムも整備
Tanzu(VMwareのエンタープライズ向けKubernetesおよびエージェントプラットフォーム)には開発者向けの機能も追加された。事前承認済みのエージェントスキル、ワークフロービルドパック、ヒューマン・イン・ザ・ループ制御、統合メモリサービスを提供するハーネス、検証済みAIモデルとツールのマーケットプレイス、コンプライアンスと監査のためのエージェント行動ログを取るAI Gatewayなどが含まれる。
Shenoy氏は「自律型AIエージェントはコードを動的に生成・実行するため、適切なガバナンスなしにはセキュリティリスクが生まれる。このフレームワークはエージェントを隔離されたセキュアなコンテナ内にサンドボックス化し、アクセスできるツールや通信できるエージェントを規制する」と述べている。
※編集部の考察:このセクションで列挙された機能群は個々に見れば地味だが、「エージェントが何にアクセスできるか」を企業側が宣言的に制御できる仕組みとして捉えると意味が変わる。AIエージェントの本番運用において最大の障壁となっているのはモデルの性能ではなく「制御可能性の欠如」であり、Tanzuのこれらの機能はまさにその空白を埋めることを狙っている。オンプレミス回帰の背景にあるセキュリティ懸念と直結する点で、Private AI Cloud全体のバリュープロポジションを下支えする層として位置づけられる。
詳細はVMware Intros Private AI Cloud, AI Factory As Workloads Shift To On-Premを参照していただきたい。